難聴

 ときどき耳の遠い患者さんが来られるのだけど、ほとんどのみなさんに共通する特徴がある。というのはボクがしゃべる前に相手の方が話をされるのね。というかボクの口が動き出すのを待って相手の方が話し始めるわけ。
 ちょうど腹話術の一国堂さんがやる、口の動きに一呼吸遅れさせて言葉を発する”衛星放送”の逆バージョン。こちらが口を開く直前に相手の言葉が出るのね。


 この”逆衛生放送”をやられると最初のうちは少しつらかった。だって人の話など聞こうという態度がないわけで全く話を進められないわけでして。
 でも、よく考えると年を取った方が圧倒的に多く、きっと長い生活のなかで、「どうせ聞こえないから相手が話し始める前になにかいっちゃえ」、みたいな思考が定着しているんじゃないかと推測するにいたり、たしかに難聴ってのはお気の毒なんだけど、最近では多少楽しませていただいているのね。
 お互い関係のない話題で会話をし続けるゲームってのを昔やったことがあるけど、あれみたいなカンジね。相手の話の内容に引きつられたら負けってやつ。
院長 「この頃肝機能の値が高いようですが、お酒を飲み過ぎていませんか」
患者 「……」
院長 「お(さけを…)」
患者 「お暑いですね。このごろ」
院長 「だ(からおさけ…)」
患者 「だい丈夫です。寝冷えはしてません」
院長 「こ(のまま放っておくと…)」
患者 「こんどは2週間後でいいですか」
院長 「ほ(んとは…)」
患者 「ほんとに飲んでません」
 まぁこんな患者はほんとは聞こえてますよね。

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