「美しき免疫の力」

「美しき免疫の力」ダニエル・ディビス著 (科学者,サイエンスライター)を読み終えた。
院長の疑問と免疫学者の疑問は大きく異なる。
たとえば院長の疑問はなぜ桃太郎はスイカから生まれなかったのか。川を下るには桃より丈夫だと思うのだが、などというたわいのないものだ。

一方免疫学者の疑問はこうだ。自己と非自己を区別するだけでは免疫はなりたっていない。自己に悪影響を与える非自己を特定できるから免疫として成立しているのだ。その仕組みはなんだろう、と。たとえば食事として口から入ってくるものや腸内細菌は自分ではないはずなのに、排除されないのだ。

この本はその疑問を解き明かそうとしてきた科学者たちの記録だ。
個体にとって危険であることを認識することはとても複雑な仕組みで行われていることが述べられているのだが、そこそこの医学知識がないと読み取れない点が多々ある。深い知識があると自負している院長にとってはその知識の浅さがすぐに露見してしまう危険性を伴う書物でもあった。
とはいえ医学知識だけでなく研究にいたる背景の描写も多々あり、とてもおもしろく読み進めることができた。

そうした科学者の疑問はいろんな創薬を促し、たとえば免疫が働きすぎないように監視するシステムを抑えることで免疫をより効果なものにする免疫チェックポイント阻害薬などにつながっていく。

一方、院長の疑問はというと、こうしたメモをしても恥とも思わない免疫力へとつながっているのである。