労働

　ゆえあって４月から心を改め労働に励んでいる。北の収容所に入っても耐えられそうなぐらい、労働に目覚めている。そのうちカミさんを、”所長”と呼んでしまうかもしれない。
　それはさておき、昨日の労働はきつかった。というのは、当直先の病院でほとんど寝ることができなかったのだ。
　曲がりなりにも一国の主である院長がほかの病院で当直するのか、という疑問にはこう答えよう。ブッシュ大統領が、職務でほかの国に泊まりにいくだろう？それと同じだ、と。
　ただ寝られなかっただけだ。

　もちろん患者が来たからにほかならない。それも夜遅くに、だ。それはいい。ブッシュがよその国で泊まってて緊急事態が発生したときに対応するのと一緒でそれが仕事なのだ。ただ気にくわないことが一つあった。
　それは、救急車で運ばれてきた老婆を診てるときのことだった。その老婆、状態がかなり悪く、当然のこととして、そうしたときは診察や検査に時間がかかるものだ。
　で、しばらくして、「はい、足を伸ばして。はい、深呼吸して」なんて具合に診察してるときに、急にそばにいた家族の一人が、「もっとやさしく扱え」というような内容のクレームを投げかけた。ちょっと強面のオヤジだった。
　名誉のためじゃなく、宣伝のためにいっておくけど、開業してからこのかた、診療中に乱暴な言葉使いをしたことはなく、ましてや乱暴な扱いなどしたことはない。もちろんほかの病院でもだ。最初、運んでくれた救急隊員に向かってのものかとも思ったけど、でも、どうもこちらを見てる。
　ほとんどの人がこのメモを読まないのと一緒で、無駄な事はしないに越したことはないから、そんなことはないと落ち着いて応えその場をやり過ごすと、意外にもすんなり納得してくれた。でも、今こうしてメモしてると、繰り返すけど、そんな対応は全くなかったゆえに、　沸々とそのオッサンの理不尽さに疑問が湧いてくる。
　一体なにが気にくわなかったのだろう。
　なんとなく労働とは無縁そうな感じにも見えた方だった。あるいは、院長の骨身を削った労働する姿に反感を抱いたのかもしれない。
　いずれにしても、労働とは疲れるものだ。