落下実験



 いつもオチを考えてからメモするようにしている。だが今日その必要はなさそうだ。記事のテーマが”落ち”そのものだからだ。
 ヒューストンのベイラー医学校の研究者が行った実験は恐怖に満ちたものだった。被験者の一人は今まで経験したなかで一番怖かったと語っている。それもそのはず、被験者は45mの高さからロープなしで後ろ向きに飛び降りるのだ。約3秒間の落下は時速110kmの速さにも達する。


 研究の眼目は次の2点だ。
 人が恐怖に陥ったとき、ときに映画マトリックスのネオが弾丸を避けたときに演じたような、時間を遅く感じることを経験することがあるというが、それは本当か。もし本当だとしたらそれは感覚的なものか、それとも実際にそのとき時間はゆっくりと流れているのか、ということだ。
 まず最初の課題は以下のようにして明らかにされた。
 被験者たちは他の被験者が落下しているところを見、さらに自分も落下する。その後、ストップウォッチを用いて他の被験者が飛び降りたシーンを思い出しながらそれに要した時間を計る。次に自分がかかった時間を同じように思い出しながらストップウォッチで計測する。
 結果ヘ自分が落コしているときは他の人が落下するとした時間より36%も長く評価していたということが判明した。
 つまり時間をゆっくりと感じていたというわけだ。 
 では落下中は本当に時間が遅れて進行しているのか。それを明らかにするために研究者らは。特殊な腕時計を開発した。時計の画面には数字が点滅しその点滅スピードを変えられるというものである。
 被験者が数字の判読ができない速さにまで点滅スピードを上げ、落下中にそれを見て取ることができれば、時間がゆっくり経過していることになる。
 結果は普通の速さでは判読可能だったが、点滅を早めるとダメだったという。
 実は研究者らは室内の実験でも同様のことを明らかにしていて、コンピュータ上で、たとえば靴、靴、靴、花、靴、といった画像が代わる代わる出てくる映像を流すと、花を見た時間は長く感じるという結果が出ているのだ。
 
 インパクトのある記憶は脳の記憶に関与する扁桃体の活動を高め、普通なら脳の他の場所でやっている記憶の作業も一緒に担うようになるため時間の経過をゆっくり感じるのだというのが彼らの仮説らしく、どうやら今回の落下実験はその補足といったところなのだろう。
 ただひとつ疑問がある。もし実際に時間がゆっくり進んでいたらそのとき手にしたストップウオッチもゆっくり進んでいることになるのではないだろうか。
 自信はないが、光速近くのスピードで進むロケットのなかの時計は、なかの人にとってはいつもの時計と変わらないのではなかったはずだ。もともと時間が短くなるなんてありえない。その点をつかれたら研究者たちはどう答えるつもりだろう。
 いくらイグノーベルぽい研究のようだといっても、少しはしゃぎ過ぎたたきらいがあるのではないか。老婆心ながら気になって仕方がない。
 考えれば考えるほど、オチ付かない夜を迎えそうだ。

ネタ元
Why Time Seems to Slow Down in Emergencies

“落下実験” への2件の返信

  1. ”オチ付かない”日記でしたがなんだか興味津々な内容でした!
    我が家でも落下実験をしている人達がいますがゆ~っくりと落ちていく様に見えてるのかもです
    戻るのポッチあれに落ち着いたんですね~

  2. 「戻る」のスイッチ、どこを押してもいいのに、不思議なことにいつも点のあるところを押してしまします。
    わたしだけ?

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