ハチドリ

　変わり映えのない日々を送っている。毎日が停止したような日々だ。
　だがそうした日々のためにはそれなりの努力が必要なのだ。大道芸人が静止して銅像の真似をしているのを思い出せばその苦労も想像がつくだろう。

　たとえば患者の数も制限しないといけない。もっと来て欲しいという気持ちを抑えながら診療に携わるのは大変なのだ。患者もこちらの気持ちを察してくれているようでなかなかやって来ない。
　芸能界の情報もそれなりに追わなくては、停止した診療の合間を埋めるワイドショーについていけない。
　この年になると、さすがにモー娘。は覚えられなくて見切りをつけたが、誰がオダギリで誰がツマブキぐらいは区別できるぐらいの情報は押さえている。
　おかげで画面に映るそれらしき男性をツマブキジョーといえば、だいたい半分ぐらい当たるようになった。
　停止したような平凡な日々を送るとはこれほど大変なのだ。
　ところで空で停止するのを得意としているハチドリという小さな鳥がいる。ホバリングしながら花の蜜を吸っている映像を見られた方も大勢いるだろう。
　どのようにして空中に止まることができるのか、以前の研究で昆虫と同じ原理で飛んでいるのではないのかということが示唆されていた。
　今回、最新の撮影技術を用いてさらに研究が行われた。その原理はごく小さなオリーブ油の粒子をかけてストロボの光でその動きを見るのだ。
　すると上向きの羽ばたきで２５％、下向きの羽ばたきで７５％の浮力を得ていたことが分かった。昆虫は半分半分で、他の鳥はただ下向きの羽ばたきだけで飛んでいることが分かったという。
　鳥と昆虫の両方の動きを取り入れているというくだりは関心を惹いたけど、正直読んであまりメモする気にはならなかった。
　それでもメモしてしまった。なぜだろう。ワイドショーを見ながら考えた。
　するとひらめいた。ひょっとして、隣のオバサンをビデオで撮っても制止できなかった話が気になっていたんじゃなかろうか。
　今時８ミリカメラはないだろうけど、８ミリ撮りとハチドリが、制止と静止が深層心理のなかで合致したんじゃなかろうか。
　けんか両成敗であのオバサンの言い分もきちんと聞かなくてはとは思うけど、オバサンやはりなにか尋常ではない行動パターンを取り入れているような気がする。
　ほんと平凡な日々を送るとは大変なことなのである。

ネタ元
HighTech Pictures Reveal How Hummingbirds Hover
「大きな音と思わない」 騒音で傷害の主婦初公判　:共同通信