見え方

 けがれを知らないその初々しさゆえだろうか、乳児には大人とは異なったものの見方ができるという。
 もともと乳児は話しかけられる言語の違いを区別できているのではないかという報告が1980年代からあったのだが、理由は分からなかった。今回、英国の研究者が次のような実験をして謎の解明に一歩近づいている。


 生後4,6,8ヶ月の赤ん坊、36人が実験の対象だ。赤ん坊たちは母親のひざに抱かれている。前にはテレビがあり画面には女性が子供向けの本にある物語りを語っているシーンが流れている。女性は最初、英語かフランス語、とちらか一つの言語で語っているのだが、ただし音は聞こえない、つまり音は消してあるのだ。
 その女性が使う言語を変えたとき子供がどう反応するか調べたものだ。
 最初の実験は英語だけが話される家庭環境にある子供に対して行われた。画面に映る女性に子供は興味を抱くが、やがて関心を失い始める。そのときを見計らってそれまでに使っていた言語からもうひとつの言語に切り替えた。すると再び画面に注目し始めたのだ。
 大人には理解できない女性の口のリズムなどの違いを見て取っているのではないかというのが研究者の解釈だ。
 さらにおもしろいことにこの現象は8ヶ月の子供には見られなかった。その密かな能力が消え去ったのだ。ところが英語とフランス語の両方を使う家庭環境にある子供で実験してみると、8ヶ月の子でも違いを読みとることができたという。
 研究者いわく、子供は「必要でないものを区別することをやめ、必要なものは区別し始める」ということらしい。
 そうだったのか、われわれはみんないろんなものが見えていたのだ。だが毎月の業者への支払いや税金の納付や銀行への返済などというけがれた行為でそうした能力がそがれていったのだ。そう思うと、業者や税務署や銀行がうらめしい。
 とはいえ、逆に乳児のように真っサラな気持ちになれば、われわれはいろんなものが見えるようになるかもしれない。
 残り少ない小遣いであと何本ビールが買えるかなどという邪悪な考えを捨て、子供のような初々しい心で日々の生活を送るのだ。
 身に付くかどうかは不明だがひょっとしてその瞬間が訪れたときのために、このすばらしい能力に名前をつけておこう。
 





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Infants can recognize different languages simply by observing a speaker’s gestures

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