待合いにテレビを置いている。患者が抱く院長のヘタ診療への不安を少しでも和らげようとの魂胆だ。
主の気持ちが伝わってか、テレビも独自の進化を遂げている。突然画面を黒くする技を習得したのだ。
音声は流れているが、画面にはなにも映らない。そうした事態がいつからか日に何度も起こるようになった。いわばラジオに化けるテレビといったところだ。
そんなラジテレに患者は驚いているが、それだけではない。スタッフから側面をバシバシと二、三発叩かれると、またきれいな画面に戻るという芸当まで披露してくれ、患者への受けは大変よい。
そこで疑問がわいてきた。画面が暗くなっているとき、口をパクパク動かしながら院長が横に立ってみると、患者はどう思うだろうか。
これは冗談ではなく、真剣な疑問である。
たとえばハイレベルの腹話術を見てると、まるで術師が抱く人形がしゃべっているように見えるではないか。あるいはテレビのなかの人物がしゃべっているとき、スピーカーが離れた位置にあってもその人物の言葉として受け取れるではないか。
ネタ元の研究者が抱いたこうした疑問は素朴だが、確かに不思議なことだ。視覚と聴覚の関連をどうなっているのだろう。
通常5感といわれる視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚は脳のそれぞれの担当領域で認識されている。
そこで研究者たちはネコを使い、担当領域にたどり着く前の下丘(かきゅう)という場所に電極を差し込んでみた。音と映像の刺激を与えてその部分の活動を調べてみると下丘のおよそ6割の神経細胞が音の信号にも視覚の信号にも反応したという。
つまり腹話術にしろ、スピーカーが離れたテレビにしろ、それぞれ視覚としてはっきりと認識する以前にすでに音と映像が関連しあっているから、人形がしゃべっているように見え、またTVのなかの人が語っているように見えるのではないか、というのが研究者の見解だ。
さて最初の疑問だ。いわば逆腹話術なのだが、暗い画面のTVの横で院長が口パクしたらどんな風に捉えられるのか。
大変ダサイ例えだとは承知しているが、本当にどんな風に映るのだろう。
ネタ元
Sight, Sound Processed Together and Earlier than Previously Thought