医師会からの割り当てで年に何回か休日当番医をやる。今日がそうだったのだが、例のインフルエンザのため、今までとひとつ違う心構えで臨んだ。
感染を防ぐことが少しでもできればいいかとスタッフともども特別なマスクを用意したのだ。なんでもダチョウの毛には抗ウイルス作用があるらしく、そのダチョウの毛を含んだマスクで、取引のある薬屋さんから紹介され今日のために準備しておいた。
正直にいおう。効果はいかほどのものか、データも見ていないし、理屈も全く知らない。そのうち、こちらのマスクめがけてコンコン咳をする患者たちを前に気づいた。よくよく考えると、手洗いとうがいという心細い対策になにかもうひとつ加えたかっただけなのだ
画像は鳥のくちばしのようなとがったマスクをすればペストが予防できると考えた中世のペスト医者だ。ふと彼らの姿と自分が重なる。そんなものではペストなど予防できないのだ。今では一笑に付されるべき漫画のような格好だが、今日の診療に臨む姿勢はまるで彼らと同じではないか。そう自分を責めながら、押し寄せる新型インフルエンザの患者を診つづけるのであった。
だが診療が終わってみると、こうも思うのだ。
ダチョウの毛で作られたマスクなんかより、中世のペスト医者のマスクの方が効果があるのではないか。
想像して欲しい。診察室のドアを開けると医者がこのくちばしのようなマスクをしてデスクの前に座っている光景を。
熱があり動くだけでもフウフウしているというのに、なんだこのバカ医者は。大半の患者がそう思うに違いない。そして大きな音を立てるか、ソーとかは別として、必ずや診察室のドアは閉められはずだ。
つまりウイルスは近づかず、感染の機会はぐっと減る。学校や職場でもこのマスクは通用するかもしれないからぜひ試して欲しい。インフルエンザよりやっかいな事態が待っているかもしれないけどね。