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数ヶ月前のこと。ある症状をほかのところで診てもらい、いろんな治療を受けたけどなかなか治らないといって来院した中年の女性患者がいた。こんなヤブでよければどうぞどうぞと話を聞く。実はこういうときは後攻、つまりこちらが圧倒的に有利なのだ。
診療とはいわば占いみたいなもの。
「吐き気はありますか」「はい」「やはりそうですか」
「吐き気はありますか」「いいえ」「そうでしょうね」
これを当たるも吐き気、当たらぬも吐き気、という。


「わたしはどんな人と結婚するのでしょうか」そんな問いを掛けられたA占い師と「云々という人と結婚するのですが、うまくいくでしょうか」という問いを掛けられたB占い師は圧倒的にBの方が有利なのだ。どんな人と結婚するのかの確率はほぼ不明だが、煮詰まった話をもちかけられたB占い師は確率はうまくいくか、いかないかの半分なのだから。
この有利性を利用して診療にあたり、おかげで患者の症状は改善し患者からなんだかとても気に入られた。やがて症状がなくなった患者からもうこなくていいだろうと切り出される。しまった、経営的にはもう少し症状が長引くようにするべきだったと困っていたら、さらに難問を突きつけられる。
記念にこのおやじの写真を撮りたいというのだ。
もちろん心底-本当に心に底があるのを体験したのは始めてのことだった-辞退したのだが、そんなことにおかまいなく女性はバッグから使い捨てカメラを取り出しレンズをこちらに向けて2,3回シャッターを押すのだ。そして数日後患者が「はい」と差し出した写真が上のもの。画像処理で顔はぼかしてあるが、実物はにやけた、心の底を表した顔が写っていて恥ずかしい限りだ。
とはいえ、とてもありがたい。しかも額付きのプレゼントということで、今はこの写真に写る診察室の棚にありがたく置かせてもらっている。
でもね、実はそれほどあなたのことを真剣に考えていないかも。あなたがインフルエンザで来院したら、こんな格好で迎えるかも。(クリック)

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