タイプライター

幼いころ、家にオリベッティタイプライターがあった。キーを打つとアームが下から上へと立ち上がりアームの先に刻まれた文字が紙に印字される。ところがめちゃくちゃに打っていると隣り合ったアームが絡みあい、動作が停止することがある。
実際、タイプライターを見たことのない人にはなかなか想像しにくいだろうから、今となっては貴重な体験だったと思う。
だがこの経験がおろかな行為の元凶になっていたことに最近気づいた。
ああ、神さま仏さま、わたしはなんとうそつきであったのでしょうか。

現在のキーボードは一般にQWERTY(クアーティーと呼ぶらしい)配列と呼ばれる様式をとっている。キーボード文字の左上の配列を指しているものだが、なぜこの配列を取っているのかの説明のひとつに、メカニズムが動かなくなるのを防ぐために「タイピストを遅くする」ように設計されたというものがある。この説を信じていたオヤジは調子こいて、「隣り合ったアームが絡まないようにキーボードにはQWERTYが配置してあるんだよ」と、なんど人に説明したことか。

だが、これは都市伝説なのだ。ネタ元にその理由がある
「しかし、それは本当ではあり得ません。英語で2番目に一般的な文字ペアであるEとRは、互いに隣接しています。最も一般的なTとHもすぐ近くにあります。 1949年の統計分析によると、QWERTYキーボードは実際にはランダムに配置されたキーボードよりも近いペアを持っています」

統計なんか持ち出さなくてもちょっと考えれば、ほかにもTYとかRYなんかはよくペアリングするような文字だし、実際人に説明したときもなんども「あれ?なんかおかしい」と説明がとまってしまうことがなんどもあったのだ。

それにも関わらず、なぜそこまでこの説に固執したのだろう。
思うにこの現象のなかにある、世の中の真理を垣間見ていたような気がする。仲のいい関係は、実は離れていた方がいい場合があるという悟りのようなアームの関係。

心の奥深いところできっとありがたく、南無アーム打物と唱えていたのだ、といくらごまかしても、これじゃアホの上塗りだな。

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