ギリシャ神話にあるパンドラの箱。もう一度ストーリーをなぞると、神から開けてはいけないといわれていた箱をパンドラが好奇心に負け開けてしまう。
すると閉じ込められていたあらゆる災難や邪悪が飛び出し、最後に希望が残った、という。
でも疑問がわく。最初に希望が飛び出し、次から次へと出てくる悪をひっ捕まえてはなぎ倒す、というお話ではないのはなぜだろう。
きっとそれは現実と大きく異なるからだ。ほんの少しでも現実をかすらないから、語り継がれるお話にならなかったのだ。
干ばつや洪水、圧政、伝染病や戦争など、人として歩み始めて以来、人はさまざまなことに苦しめられてきた。
ときにはそれを邪悪と呼ぶことで心の平衡を保とうしてきたはずだ。そしてきっと多くの場合、敗北してきたに違いない。
それでも人は希望を失わなかった。ほんの少しでも希望を抱き続けた。この事実があったからこそ、この話は何千年もの間、生存権を得てきたのだと思う。
たとえ核戦争が起こったとしても、生き残った人々はきっとこの神話を語り継ぐに違いない。