「ガラスは液体だって、知ってる?」
夜の街のカウンター越しにいくたびこのセリフを口にしただろう。
”液体のような個体”という表現がより正確らしいのだが、詳しくは知らない。この豆チキシは人にひけらすためだけに存在していたからこの表現で十分だった。
キーワードは”液体”だ。固いガラスが液体であるという意外性が重要なのだ。相手の「エー」という反応がキャッチできればそれでよかったのだ。
そしてセリフが続く。「ゆがんだガラスを見たことがあるだろ?」
これはどこかで聞いたかあるいは本で読んだ知識なのだが、語るときいつも頭のなかでは小学校時分の教室の窓ガラスが浮かんでいた。実際木枠の窓のいくつかのガラスは表面が微妙にうねっていたのだ。液体だったらゆがむはず。だからその窓ガラスを根拠に自信をもってガラスは液体だと語っていたのだ。
だがそれは違うという記事に出くわした。
いわく「中世の教会のステンドグラスのゆがみを解説するガイドとか、インターネット上のうわさとか、あるいは高校の化学の教師までもがガラスのゆがみがガラスが液体だという証拠にあげている」
いくら液体のような固体であるといってもガラスが自然に”溶ける”ような状態になるにはとても時間がかかる。数学的なモデルを使うと、室温でガラスが液体のような変形が起きるには宇宙が誕生したより永い年月がかかるというのだ。
だからガラスのゆがみは液体であることの証左でなく、製造過程での問題だというのが真実のようなのだ。
さて困った。今までガラスの話をしたカウンター越しのオネエサンたちにウソをついてきたわけだ。なんといいわけしたらいいのだろう。
スタッフ「そう深刻にならなくてもいいんじゃないですか」
院長 「そう?」
スタッフ「エーを期待してたからガラスはエー期待だったんでしょ」
院長 「…」
スタッフ「ほかにもいろいろウソついてきたし」
院長 「そうね」
ネタ元
Fact or Fiction?: Glass Is a (Supercooled) Liquid
ちょと豆チキシ