長寿

 長寿への道が一つ開けたかもというニュース。
 身体に悪い活性酸素というのがあるんだけど、それを押さえ込むタンパク質があって、そのタンパク質をたくさん増やす遺伝子が見つかったというのがその内容。ハエを使った実験では、その遺伝子をもってるハエは長生きし、そうじゃないのは早死にしたらしい。


 で、思い出したこと。つい数日前、四国のある街で、ある老人と話をする機会があった。その方、八十は悠に過ぎた女性で、毎日住んでいる隣町からバスに揺られ、40分もかけてその街にあるお墓にお参りに来られているという。
 話をした場所は、駅前のバス停留所で、今からバスを乗り継いで、お寺まで行くという。こちらも予定した行動まで半時間ほどあったの で、つい話し込んでしまった。
 なんでもご主人を二十年前に亡くしておられ、一人住まいとのこと。小柄な容姿でもあり、つい同情してしまいそうな雰囲気が漂ってたけど、とんでもない。何十人という人の苦悩を一気に引き受けて、かくしゃくと日々を過ごしておられるらしい。
 というのは、信心深い方で、四国ならではのことなんだろうか、御大師さんに毎日、何十人の方の困り事を祈祷されているという。
 それまでにも、何百人もの祈祷を受け付け、実際によくなった病気の方の話などを、つきることなく話されていた。
 時間はあっという間に過ぎ、そろそろこちらも動き出そうかと思っても、なんとなく、おばあさん、なごりおしそうな様子。そもそも聞き入ったのは、お寺方面のバスはすぐ来るから、とおっしゃったこともある。
 すぐだったら、こちらの予定にも差し障りはないだろうし。
 話していたバス停には、ポツポツとバスがやってきてた。でもね、そのたびに、「このバスは違う」といわれる。
 実は、駅前ということもあってバス停には二つのレーンがあり、話し込んでいた停車レーンの後ろにもバスが停車していたのね。話が長くなるにつれ、バスが来るたびにこちらの方に止まるのを、なんとなく期待したんだけど、八割方は後ろの方のバスレーンへと流れていく。
 いよいよ時間も押し迫ったので、こちらの方から、なかなかバスが来ないことを問うと、なんと自分が待つべきバス停はここじゃないという。つまり後ろのバスレーンに停車するバスに乗ると、お墓まで行けるとおっしゃるのね。
 ボケなどとは無縁そうな方。きっと、知ってても知らぬ振りをされていたに違いない。
 長寿といってもいろいろな長い命がある。ベットでしか生活できない老人もいれば、こうして上手に、人を引きつける方も。
 おばあさん、今から先もぜひぜひ、チョウジュに長生きしてくださいね。

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