ボトックスという注射薬がある。ボツリヌス菌から出される毒素を抽出したもので、眼瞼けいれんなどの治療に用いられる。現在いくつかのけいれん疾患に保険適応となっているが、適応となる前から全国を飛び回り、それを用いて治療していたある先生と昔、懇意であったこともあり、少ない医学知識のなかのひとつになっていた。
そのボトックスをクリスマスシーズンを前に足に注射するのがロンドンのエグゼクティブな女性の間で流行っているという話があった。
どうやらハイヒールの痛み対策のようだが、ネタ元がANANOVAなのでどうしてボトックスなのか理由がはっきりしない。
いくつかの箇所を紹介するとこんな具合だ。
ハーレー医療グループ(英国の最大の美容形成グループの1つ)によれば、ロンドンではますます多くの女性が足の底部にボトックスを注入している。顔面への注射は顧客が要求するところだけに用いられるのが普通で、昨年までは1人か2人しか痛む足へ打つように要求しなかった。
だが今年は多くの女性が、靴に入れるべき2ドルのゲルパッドを買うよりも、”foot-fillers”(足注入とでも訳すのだろうか)と呼ばれる新しい技術に喜んで240ドルを支払っている。
「私たちは、患者がお金を使う前にもう一度考えるように促している。というのは、この部位は高い衝撃を受けるため、効果が長続きしないからだ」「顔の場合はボトックスの効果は6か月続くが、足ではおよそ2から3か月間クッションの役割を果たすだけだ」
ということで、どうも注射することでクッションができるということのようなのだが、そんなこと以前に、この薬、シワ取りなんかの美容形成に使われていたのね。業界では周知の事実なのかもしれないが、でも別に知らないなら知らないで日常診療にはなんら差し障りは生じない。病気の治療薬として認識できていればそれでいいと、悔し紛れにいいたい。
でも一体なぜシワがとれるのだろう。ということでネットで調べると理屈はこんなことらしい。
本来、けいれんを押さえる薬というのは筋肉をほぐすもの。シワ、とりわけ顔のシワというのは、たとえば笑いシワのように筋肉に関連したものが多いので、そのシワの周囲の筋肉の緊張をほぐせば、ハイ元通り。
では足へ注射するのはどうした理由からなのだろう。筋肉をほぐすと柔らかくなりクッションになるような気もするが、それでハイヒールの痛みがとれるのだろうか。宴会でブラジャーをして踊らされたことがあるが、あのときの胸の深い深い痛みは筋肉をほぐしてもとれそうもなかった。
なぜなのか、しばらく考えた。
もう一度問題を整理しよう。
まず医学的”正統派”として、けいれん治療薬としてボトックスを用いる。その使い方をA用としよう。とすると当然、美容に用いられるのはB用だ。
なるほどなるほど。いいぞ、いいぞ。だが、そこまでだった。一体なぜ足に使うのか。
それから悩みに悩み、けいれんしかけた脳にボトックスでも注射するしかないとあきらめかけたときだった。
そう、思いついたのだ。あ、C用、なのか、ってね。