いまフェリーに揺られての旅行中。二等客室は避難所みたいな混みよう。そんななかでジャンヌダルクのように果敢に人生を切り開こうとしている女の子が、すぐ隣にいるのでメモしておこうかと。
中学生と思われるその子、両親と小学一、二年ほどの妹と一緒。お父さんはあるいは人生から避難してきたのかと思わせる風貌の方だけど聞くわけにはいかない。
聞けば同じ質問を投げ返される恐れがある。
で、そのお嬢ちゃん、船が動き出すと、やおらカバンから本を取り出した。表題は、「サマー集中学習」。パラパラめくるページを盗み見ると、数式が並んでいて、数学の問題集のよう。
それを鉛筆片手にチャレンジしようとしてた。
妹も姉につられてか、なにか本を手にしていたけど、一向に開く様子はなく、姉の身体に触ったり話し掛けたりしてる。
よほど妹思いのお嬢ちゃんなんだろう。妹の挑戦にその都度、対応していて、結局鉛筆は問題集に触れないまま、30分が経過した。
よほど勉強熱心なのか、今度はそのお嬢ちゃん、寝転がって顔の上で問題集を手で支えた。でも支えているけどちっとも見る気配はなく、そばのお母さんと話をしてる。
その状態が20分ほど続いただろか、結局問題は一問も解かずに、再び問題集はカバンに戻された。
確かにじゃれついた妹が悪い。支える手も弱く、問題を解く気にもならなかったんだろう。
でもね、人生、やると思えば、集中しなくてはならないときがあるのよ。どうか、アテンション、プリーズ、して欲しかったと隣で心ひそかにお願いしていたオヤジがいたことを知っていて欲しい。その事実はきっとなにかの機会に君の力になるはずだ。
このことは勉強のことばかりじゃない。たとえば君が高校生にでもなってバイト先で店長から、失敗を怒られたとしよう。
その失敗の原因の一つが、集中が欠けていることかもしれないじゃないか。
でもね、そういうときは、「店長、どうか許してください」とお願いするしかない。一生懸命お願いするんだ。
あ、店長、プリーズ、ってね。
そのとききっと、アテンションプリーズ の意味を理解できるだろう。