遠隔操作

　昨日の夜、所用で近くの大きな病院に行った帰り際のこと。
　廊下を歩いてると、突然停電になった。確かに日々、善行を怠っている。神がそれを非難されているに違いない。そう気付き、明日は本の整理をすることを誓いながら建物を出る。

　駐車場に着いても、まだ病院の建物全体はほの暗いまま。
　明日こそ善行をしなさいと、きっと天が諭してるのだ。じゃないと、この建物のように、あんたの人生、ほの暗くなるぞ、と説いているのだ。
　なんと神の力は強いことか。さっそく毎日のビール３本は確かに多かったことを反省しながら、車に乗り込む。
　駐車場は、バーが自動で開閉するもので、車を精算機の横につける。でも、停電で調子が狂ったみたいで、駐車券を入れようとしても、入らない。なんどやっても入らない。
　ということで、機械の下の方にあるインターホンを押してみることに。
　数回のコールのあと、女性が出てきた。病院の受付あたりの方だろうと思って事情を話してると、どうも停電していることを理解していないようだ。
　朝、確かに口答えしたのは恐れ多かった。ほっぺを叩かれたのも今にして思えば仕方ないことだ。深く反省している。その口より手が先に動く女性は家にいたが、このインターホンの女性は一体、どこからしゃべっているんだろうか、不思議に思い訊ねてみると、なんと横浜からだという。
　で、今から遠隔操作でバーを上げてみるという。
　まぁ確かに配線が繋がっていれば、そんなことも可能なんだろう。
だけど、目の前のちっぽけなバーのためにわざわざそんな設備がしてあるのか。よくチョコバーを買ってきてと遠隔操作を受けることがあるが、ここ福岡と横浜の長い長い距離の間にもそんな操作が可能なのか。
　そう感激したが、なんであれ、開けば幸い。よかったと一安心して待ったけど、いくら待ってもバーはあがらない。
　なんどもインターホンから、開いたかどうか確認する声が流れるけど、いいえと答えるだけの時間が過ぎて行く。
　さて、どうしたものかと思案してると、ふとバーの横に歩道があるのに気づく。そこに乗り上げれば歩道の脇に街灯があるものの、なんとか通り抜けられそう。
　で、運転を再開。よいしょと歩道に乗り上げ、ゆっくりと街灯とバーの機械の間を進めると、無事、駐車場を出ることができた。
　あとは山の神から頼まれたスーパーの買い物を済ませれば、今日の遠隔操作は終わりだ。遠隔操作を受けなかったバーをうらやましく思いながら、病院をあとにした。