狂犬病

 鳥インフルエンザが大分で見つかったことをスタッフと心配していたら、”動物が運んでくる病気”繋がりで、いつのまにかボクのリードで狂犬病の話になってしまって。
 というのは、随分前に読んだ推理小説を思い出したのね。本業は医者で作家名、川田弥一郎という人の『白い狂気の島』というのがそれ。小さな島で狂犬病が発生するんだけど、ある人物に殺意をもった犯人が狂犬病ウィルスを持ち込んだというお話。


 でも日本国内では数十年も狂犬病は発生してないのね。ネットで調べると最後は1957年だから狂犬病ウィルスは周りを探してもないわけでして。
 じゃあ、犯人はどうして手に入れたかというと、輸入用のネコにウィルスを感染させて国内に持ち込んだのよ、というのがタネ明かしなの。このお話が書かれたころは、間違いなくネコの検疫というのはかなりおざなりだったみたい。
 まぁそれはさておき、そのとき披露した話をメモしようかと。
 クリニックを始めたころのこと。お昼休みにランニングやって戻ってくると、クリニックの前の道をフラフラと歩いていた犬がいたのね。本当に目の焦点が合ってなくフラフラと歩いていて。かつ口元からはヨダレが垂れている。
 で、すぐに考えたのが狂犬病じゃないかということ。もちろん狂犬病の犬というのは見たこともないんだけど、あの小説のことが頭の片隅にあってか、まったく違和感なくそう思ってしまった。
 もしそうだとすると、こりゃ一大事だよね。ということでそばに落ちていた木の枝を取ってアッチイケを始めた。でもそのお犬さま、トンと気づかれない風で。そうこうするうちに、、すぐ前の家のおばさんが、道路に出てこられて。
すわ一大事。感染の拡大に繋がるかもしれない事態はなんとしてでも防がなくては、などと医師の使命にかられ、その方に向かいこういったの。
「狂犬病かもしれません」
 でも、そのおばさまはキョトンとした顔をしてボクを見てるだけ。そのうちにその表情も怪訝そうな顔つきに変わってきてしまって。
確かに病気の可能性しか分からないし、ましてや対処の仕方が分からず、仕方なくおばさまはそのままにして、木の枝で、シッシッしながらクリニックに入った。
 開業したてでご近所の相関図をよく把握しきれてなく、あとから分かったこと。その犬、そのおばさんが溺愛する愛犬で、老衰の状態だったらしく、結局それから数日して亡くなったそうな。
 あるいは、ボクが手にした木を見たおばさまの思考回路はこんなんだったかも。
 木を置け、病院長…きをおけ病、院長…きぉおけ病、院長…狂犬病、院長。
 まぁ、なんにしても、ほんと、すいませんでした。

ちなみに現在はネコを含め、きちんと狂犬病に対して検疫体勢は整ってるみたい。でも海外旅行とかは注意しないとね。

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