心肺蘇生

医師であり小説家であった渡辺淳一さんの短編集で病院が舞台の小説がある。救急室に運ばれてきた心肺停止した患者を医者たちが心臓マッサージを始める。しかし長時間やっても患者は蘇生せず、いつまで続けるかという話になり、結局「次にキリギリスが鳴いたらやめよう」という場面で終わるのだが、整形外科医だった渡辺淳一さんはあまり救急の場に接しておられなかったのかもしれない。

というのは、一般的には瞳孔が開き、対光反射がなくなればもう蘇生の意味がない、と判断するからだ。
とはいっても、家族の到着を待つまで蘇生を続けることも日常診療ではごくあたりまえに行われている。

いずれにしてももう開いた瞳孔は縮むことはない。
その目で氏なりの”美しい日本”はもう見ることはできないのだ。

本当に気の毒なことで、ご冥福をお祈りするしかない。