ここ数ヶ月カルテの改竄について考えてきた。日々の診療の不手際をカルテに手を加えることでごまかすことは、もちろん絶対にやってはいけない禁じ手だ。もしやってしまえば社会的にとてもきつい責めを受けることになる。だからやったことはない。仮にやるとしても一目でわかるようなやり方ではしないだろう。それでも詳しく調べれば手を加えた箇所の筆圧とか筆跡とかで判別できるはずだ。だからやったことはないにもかかわらず、気が気でない。
とはいえ改竄について考えを巡らせていたのはそれをしようという訳ではないのだ。それどころか改竄をしていないことをいかに証明できるのか、ということを考えていたのだ。
ここ数ヶ月、カルテを電子化するにあたってマクロを書いてきたが、いくつかの重要なポイントがあった。そのひとつがこの改竄の問題だ。厚労省の言葉では「カルテの真正性」という。シンセイセイと読むのか、シンショウセイと読むのか、そもそもそんな言葉があるのかどうかさえ定かでないのだが、お上の指導には黙って従わなくてはならない。それがこの世界の仁義なき掟で、その真正性を担保するための方策を考えていたわけだ。
そこで登場するのがハッシュ値。デジタルデータにある計算を施すと必ず一意的な数値になる。それがハッシュ値で送り手と受け手でその数値が一致すればそのデータは同じものというわけだ。ついでにその値から元のデータは読みとれないというおまけつきで、ネット世界で重宝されているのだが、そのハッシュ値に一役も二役もお願いしていただくことにした。
自主開発の電子カルテの特徴のひとつは、カルテに修正が加えられると、修正されたというマークがつく仕組みになっていることだろう。それをクリックするとリンク先が開く。そこに、タイムスタンプとしてつけられた最初のデータと修正されたデータの入力時間が示され、削除箇所には赤線で削除線が、追加された内容には黒の下線がつけられた内容が現れる。
こうした修正データと入力後のカルテは複写されて日付のついたフォルダに集められており、一日の診療の終わりにそれぞれのデータにハッシュ値をつける、というやり方で真正性を保とうという目論見なのだ。
ほんの数秒でやり終えることができる作業で、実務的には問題はないのだが、このハッシュ値をパソコンのなかに納めていたのではダメだ。改竄しようと思えば、改竄したデータに新しくハッシュ値を与えればいいだけのことで、だからハッシュ値をプリントアウトしそれをノートに割り印を打って張り付けて行こうと考えている。
これでうまくいくはずだが、気になることがひとつある。カルテの内容というものは毎回ふくらんでいくものだ。なかにはこれから先何十年とクリニックに足を運んでくれる人もでてくるかもしれない。となるとそれだけの内容を複写して毎回保存していくのは、どう考えても合理性に欠けるような気がするのだ。だから記録する期間は3ヶ月前までのものとしてみた。
すべてでも3ヶ月前までのものでも理屈は全く同じで真正性は保たれるはずなのだが、お上の判断はいかがなものか、ぜひ聞いてみたい。
データを端折っているだけに、これはハショ値だからダメ、なんていわれることはないと思うのだが。