来年から特定健診という制度が始まる。健康保険の給付対象を今まで病気だけに限っていたものを、予防にも当てようというものらしい。
そこで登場するのが、生活習慣病予備軍といわれる人たちへのフォローアップだ。医療機関からメールや電話や訪問などで食事や運動などうまく予防に対処できているか、定期的に問い合わせられることになる。
体重はどうか、塩分は控えているか、運動はきちんとやっているか、院長への盆暮れの付け届けは忘れてないか、医療機関からの問い合わせは、きっとこんな内容になるのだろう。これがうまく機能し病気が予防されれば将来的には保健財政も安泰し、院長への付け届けも保証されることになる。
つまりは押し掛け女房的に相手を気遣い、なんとか健康な状態にもっていこうとするわけだ。
でも病気でもない人にいろいろ指示を出すのにはなかなか抵抗がある。それだけでなく、「しつこい」とか「お前のメールは不幸のメールだ」などと反撃に会いそうな気もするのだが、それはさておき、この制度に一役買うかもしれない記事があった。スタンフォード大学の研究で、コンピュータにフォローさせたらどうなるかというものだ。
55才以上の218人を対象に、電話で連絡を受けない”コントロール群”、訓練を受けたトレーナーから電話を受ける”トレーナー群”、そしてトレーナーと同じような対応をするようプログラムされたコンピュータから電話を受ける”コンピュータ群”に分けて調べたみた。
目標は健康を維持するために米国のある学会が推奨している週のほぼ毎日の30分の”元気ペース”のウォーキング、もしくは中程度の強度で行う週に150分の運動である。運動の量と強度はあるグッズで調べるようにした。
電話からのコンピュータの案内はこんな具合だ。
「やぁ、○○さん。前回わたしたちが話し合って決めた目標は週に5回、30分の”元気ウォーク”でしたね。この目標は達成できましたか?もしできていたら 1 を、もしできてなかったら 2 を押してください」
2 を押したとき引き続きこんな音声が流れる。
「なにが障害になっていたのですか? もし体調が悪かったなら 1 を、天候のせいだったら 2 を押してください」
こうしたやりとりのあと、コンピュータはやれなかった障害についてアドバイスを与え、新たな目標と次回の連絡日時を伝えるという。
実験を開始する前、参加者の8割以上が電話がかかってくるなら人間の方がいいと考えており、研究者自身もこんなんで運動をするようになるわけないな、と考えていたようだ。
ところが1年後の結果はこうだった。
週の運動は、”トレーナー群”で178分、”コンピュータ群”で157分、”コントロール群”で118分、つまり目標を達成するのにコンピュータでも十分代用できることが判明したのだ。
コンピュータへはいつでも連絡がつけられることや、身体能力に自信がなく人と話すのが苦手な人たちにとってはコンピュータとのやりとりは気軽なのがいいのかな、ってな研究者の感想がネタ元で述べられている。
そうか、これは使えるかもしれない。院長がコンピュータになりすまして相手に話かけるのだ。これで気後れも払拭できるだろう。
「やぁ、○○さん。前回わたしたちが話し合って決めた目標は週に5回、30分の”元気ウォーク”でしたね。この目標は達成できましたか?もしできていたら 1 を、もしできてなかったら 2 を押してください」
「なにが障害になっていたのですか? もし体調が悪かったなら 1 を、天候のせいだったら 2 を押してください」
「あ、3 なんか押さなくていいですからね。そうですか 体調が悪かったですか。前回も前前回も前前前回も体調が悪かったですね。やる気があるなら 1 を、ないなら 2 を押してください」
「あ、ないのね。だったらまた明日かけます。え、しつこいって。そうです。こちらはずっとゴリを押してるのです」
「あ、オチが分かったら 1 を、分からなかったら 2 を…」