舌切り雀


今日も君たちがどこかに連れて行けと騒ぐから、仕方なく車を出したんだ。住宅展示場に入ったのはたまたまそばを通ったからだよ。
あの展示場、よくチラシが入っているよね。ついこの前も写真撮りとかプレゼント贈呈なんかタダでやっているというチラシ、君たちも目にしたことがあるだろう。いいよね、タダって。
写真をタダで撮ってもらったり飲み物をタダでもらったりしたのはとってもうれしかったけど、でもね、この景品は、ひどい。


いろんなおもちゃのなかから大きなものを選んだ君たちの気持ちは分かる。君たちは親に似て欲深いから、中国製、なんてのにもこだわらず大きなものを選んだんだよね。
でも開けてみたらバリバリ純正の中国製じゃないか。全部なにからなにまで中国語。なんのおもちゃかさえまるで分からない。おまけに部品も解説の絵と比べるとどうやら足りないみたいだ。
本当にひどい話だけど、せっかくの機会だから舌切り雀の話を聞かせてあげよう。ウィキペディアからまた引用するよ。

お爺さんに助けられてかわいがられていた雀は、お婆さんが障子の張り替えに使おうとしていた糊を食べてしまい、舌を切られて逃げ出す。その雀をお爺さんが追って山へ行くと、雀たちが恩返しにご馳走してくれたり踊りを見せてくれた。お土産として大小2つのつづらのどちらを持って行くか聞かれ、小さい方を持って帰り家に着いて中を見てみると小判が詰まっていた。欲張りなお婆さんは、大きなつづらをもらおうと雀の宿に押しかけ、大きい方を強引に受け取って、帰り道で開けてみると中には妖怪や虫や蜥蜴や蜂や蛙や蛇が詰まっており、お婆さんは腰を抜かし気絶してしまう。

どうだい。大きなものには決して福が入ってないんだ。お父さんの大きな心には決して幸せは入ってないんだぞ。
でもなんでこんな仕打ちに会わなければならないんだろうね。
糊を食べたわけでもないけど…あ、ひょっとしてお父さんがいけなかったのかもしれない。
モデルハウスを出るときアンケートを取られただろ。もちろん相手さんの今後の営業への足がかりにしようというもので、それはそれで納得ができる。え?なにか文章が語り口調から変わったって?下書きに手を入れてるんだから仕方ないないんだよ。
でね、素直に協力してあげたんだけど、お父さんたちは暇つぶしで来ている。だからいい加減な回答をしかしなかったの。
こんな具合。
土地持ちか、もしそうならどれくらいの土地か、という質問には500坪、予算は?、はいはい、1億円。
とりあえず名前と住所は正直に書いたんだけど、その他はとっても冗談だったんだよ。それでバチが当たったのかもしれない。
だから雀さんたちと一緒に覚えていて欲しいんだ。
ノリもそうだけど、悪ノリにも手を出しちゃいけないよ。

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