禁煙キャンペーン



 杖をついている写真の男性は48才のレゴルトさんだ。米国ニューヨーク州ではちょっとした有名人になっている。彼の姿はTVやポスターでしばしば登場しているのだ。
 彼を有名にしたのは8才から始めた喫煙歴にある。その悪癖は彼の身体をむしばみ続け、20代で2回の心臓発作を、さらに1回の脳卒中を引き起こした。それだけではない。彼は喫煙のおかげで足の血流がなくなるバージャー病という病気に冒され、それが原因で2回にわたって足の切断を余儀なくされた。現在も断端の血流が悪いため義足を装着できず、松葉杖を用いる生活を余儀なくされている。


 その姿がニューヨーク州で開始された禁煙キャンペーンの主催者たちの目に留まった。モデルに志願した彼は採用され、その姿はTVやポスターに登場し始めたのだ。「タバコがいかに身体に悪いかを知ってもらえれば、人は吸わなくなるだろう」、そう考えたとレゴルトさんは語る。


 だがひとつ重要なことが明らかになった。彼は喫煙をやめていなかったのだ。
 1日に3箱も空けていた昔よりは減ったといえ、いまだに半箱は吸っているという。
 もちろんその事実は世間を騒がせ、ネタ元の記事もそれにあおられたものだが、「自分は誰にも禁煙を勧めてはいない」とするレゴルトさんの弁明は文言だけを捉えればおそらく真実だろう。彼によればキャンペーンに一役買ったマスコミもあらかじめそれを知っていたフシがある。
 ざっとそんな内容の記事なのだが、彼がタバコを吸っていることを隠していたかどうかは些細なことのような気がする。
 ではなにが問題なのか?
 それは記事の最後に紹介されている彼の言葉を見れば一目瞭然だ。
「自分が病気だと知っている。どれくらいの病気かも知っている。今日死ぬことだってありえる」
 それにも関わらず、彼はタバコに手を出しているのだ。これをタバコ中毒といわずしてなんというのだろう。
 問題は彼が中毒であることなのだ。このことをなぜ関係者はキャンペーンに利用しないのか。
「タバコがいかに身体に悪いかを知ってもらえれば、人は吸わなくなるだろう」というレゴルトさんの考えは間違っている。中毒に陥っている人はそう考えないものだ。
”分かっちゃいるけど、やめられない”のが中毒者なのだ。ビールと院長の関係をみれば分かることだ。
 レゴルトさんはタバコの中毒に冒されているひとりなのだ。タバコを吸っているあなた、あなたも中毒者なんだよ、そう力説するキャンペーンが必要ではないのだろうか。
 きっと多くの人がこの卓越した意見に賛同してくれると信じている。
 だが舌の先が乾かぬ内に意見を翻して申し訳ないのだが、実はこの見解は間違っているのだ。
 実はレゴルトさんはタバコの中毒なんかには冒されてはいない。



ネタ元
Man in anti-smoking ad still lights up

“禁煙キャンペーン” への1件の返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。