ハンズフリー携帯

 ご存じのように運転中に携帯電話を使用すると罰則がつくようになった。こちらは典型的な小市民だ。それ以来運転中、携帯には絶対に触れないようにしている。禁酒法なら覚悟はできるが、携帯ごときでしょっ引かれてはたまらない。
 実際、運転中の携帯電話で事故のリスクが高くなるというデータがあるようだし、交差点なんかで対向車が携帯しながらハンドル操作をするのをみかけると、運転が不安定でこちらが危険を感じることもあるから、まぁ守るに越したことはないだろう。


 ところで携帯にもいろいろある。いわゆるハンズフリーのものではどうなのか。
ネタ元は米国の研究者が調べたものだ。入院するような事故を起こした17才以上の450名近くが調査の対象だ。
 本人の了承を得て通信会社に残る携帯の記録を調べ、事故の10分以内に着信があったとかメールをしたとか発信したとかを詳しく調べた。さらにはハンドフリーかどうか携帯の種類も併せて検討したところ、手で携帯を持とうが持つまいが、かつ男女を問わず事故の危険が4倍に増えるということが明らかになった、というのがネタ元の話だ。
 手を使わない分だけ、フリーの方が安全のような気もするが、やはり注意が散漫になるということなのだろう。
 でもよく考えるとハンズフリーの携帯というのは相手こそいないけど、普通の会話とほとんど一緒じゃないか。ということは車内の会話にも気をつけなければならないということだ。
 歩道を歩いている若い女性に目線が行くのは、もちろん交通安全のためだ。見つめすぎて車が逸れ歩道にでも乗り上げたら大変だろ。そのために注意を注いでいるのだ。
 きれいなお嬢さんだ、などと発言しようものならたちまちのうちに助手席のカミさんの口から文句が飛び出すはずだ。頭にパンチが飛んでくるかもしれない。
 もちろん嫉妬などではない。車がぶれると自分も危ないことを知っているのだ。その証拠に買い物を命じたあと、こちらが運転中だと知っているはずなのに携帯を必ずといっていいほどかけてくる。携帯やおネエさんのせいで歩道に乗り上げようと構わないのだ。
 用件が追加注文なのは経験的に明らかだ。それも預かった金額より大きくなる品が指定される。負担はいつもこちら持ちで、いつの間にかうやむやになってしまう。
 だがそういうことは些細な問題に過ぎない。要は法を順守する小市民としての代表であり続けたいのだ。だからとても携帯に出ることができない。
 鳴り続ける携帯に気を奪われながらも、ようやく目的のスーパーに着く。
それからが大変だ。携帯をどうすべきか。電源を切れば相手に分かってしまう。運転中はちゃんといいわけがある。だがなぜスーパーでは取れないのか、そう攻められれば一発でアウトだ。
 考えた。そうだ。忘れたことにすればいい。小市民にはよくあることじゃないか。そうひらめくと運転席に携帯を置いて車を出る。もちろんマナーモードにして持ち歩くことも可能だが、ウソをつくなど小市民としてできないのだ。
 とまぁ、こうした汚い、手を使わない分だけ、フリーのときの方が車の運転は安全だったような気もする。

ネタ元
Role of mobile phones in motor vehicle crashes resulting in hospital attendance: a casecrossover study

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