999999

 今日の「院長室」のカウンターはいつもより少し多めに動いている。1億には達しないだろうが、きっとこのメモの最多記録になるはずだ。いつも来ていただいている方には、とうとう粉飾決算に手を出したかと思われるむきもあるだろう。
 だが事実は違う。実は「小粋空間」という巨人サイトでこのメモが紹介されたのだ。


 「小粋空間」ではレイアウトを初めサイトのこまごましたノウハウが惜しげもなく披露されている。「院長室」のレイアウトもほとんどが「小粋空間」から拝借してきたものだ。「巨人たちの肩に乗って」という言葉(注)があるが、まさに「巨人の肩」に乗せてもらっている状態だ。
 その「小粋空間」のカウントがつい先日、100万ヒットを達成しそうになった。それに合わせ、管理者のyujiroさんが999999あるいは100万のキリ番をゲットした人にプレゼントを贈呈しようと企画された。
 その日は朝から診療の合間にカウントを眺めていた。患者の来院数よりはるかにカウンターが増えるのが多かったから、カウンターを見ながら診療していたという方がいいかもしれない。
 確か9百9十9万9千7百になったのが12時半ぐらいだ。このまま行けば昼休みの間に100万に達する。だがその昼休みには往診があったのだ。
 救急車に頼んで患者をクリニックまでに運んでもらうという手もあったが、医師免が剥奪される可能性がある。剥奪されると、この「院長室」も継続できなくなる。たかがキリ番ゲットのために二つも失うのは勘定が合わないのではないか。
 賢者の思考とはかくも深いのかと自分でも驚きながら、仕方なく往診にでかけた。戻ってきたときにはすでに100万を越えているかもしれないなと気は抜けていたが、決して手を抜くことなく診療をし、帰ってきた。そして再びパソコンに向かったところ、なんと幸運にも999999をゲットできたのだ。
 yujiroさんが用意してくれたプレゼントは粗品進呈かサイトの紹介だった。
 物欲が強いせいか少し迷ったが、ネットで情報を流しているものなら誰しも思うこと、つまり多くの人に知ってもらいたいとの思いも強い。
 せっかく巨人の肩に乗せてもらっているのだ。ついでだから一度はそこから遠くを見渡してみたいものだとサイトの紹介をお願いした次第だ。
 だが現実にカウントが上がっているのを見てると、うまく表現できないのだが漠然とした不安も感じ始めている。
スタッフ「明日からまた訪問者は元の通りになる」
院長  「そうそう」
スタッフ「肩に乗っていても、しかしという思いがある」
院長  「そうそう」
スタッフ「肩…シカシ」
院長  「そう、肩スカシ」

(注)豆チキシ
 「巨人たちの肩に乗って」という言葉はニュートンのセリフだ。なぜあなたは聡明なのかと聞かれたときに、ニュートンが答えたものといわれている。アルキメデスやガリレオを初めとする巨人のような先人たちの仕事があったから、その肩に乗って遠くを見ることができたというわけだ。
 幼い頃からひょうきんもので「調子に乗るな」といつも親からたしなめられてきた。そのせいか、巨人の肩にも乗ってはいけないと思い込んでいた。なぜあなたは聡明なのかと聞かれたことがないことも手伝っているのだろう。おかげで細々とした人生を送っている。
小粋空間

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