今まで医師会への寄稿文をなんどかここにメモったことがある。いつも寄稿したあとにここに書き留めていたのだが、よく考えると著作権触れるわけでもなく、またなにかの文学賞のように、どこかに発表したものはダメよ、ってなことではないわけで、そもそも誰の目を汚すのかさえ分からないのに、なんとなく自分の高慢ちきさに恥ずかしくなる。
ということで、おそらく近々医師会雑誌に寄稿することになるだろうものをメモしてみる。
電子処方せんを準備するにあたって面白いことに気づいた。
自然界には4つの力がある。素粒子に関連する弱い力と強い力、それに重力と電磁気力だ。日常生活では前のふたつは実感できず、重力と電磁気力は認識できる。
とはいえ重力と電磁気力は異なるものであり、重力によって培われた経験値が尺度になっているからだろう、その認識の仕方は大きく異なる。
電磁気力が、たとえば電車を動かすなど重力に対してなんらかの影響を与えるものとして作用したときには、そこに”力”を感じるが、部屋の電灯に”力”を感じないようにそうでない場合にはなかなか実感できない。
その電磁気力をパソコンのなかの”力”として実感できたのだ。
オンライン資格の端末には重要なface,req,resと名前付けられている3つのフォルダーがある。
それぞれ基金サーバとのやり取りで用いられ、faceフォルダーはその名の通り顔認証で使われ、電子処方せんは主に req すなわち request と res すなわち respons の二つのフォルダーで情報のやり取りを行っている。
そもそも電子処方せんを作成するとは、処方内容を基金サーバに登録するという行為であり、薬局を含めた医療機関が登録したい処方せん情報をreqフォルダに入れてリクエストし、resフォルダに基金から登録の可否をリスポンスされるという仕組みになっている。
そのreqフォルダに件の処方せんファイルを置くと、あっという間にそのファイルが消え去るのだ。まるでだれかが来てさっと持ち去ったかのように。
考えてみればメールも似た挙動だが、でも目の前にあったものが突然消え去るとなるとそこに生じる感覚はかなり異なる。
電車を動かすような力強さではないが、それなくしては起こりえないような力の存在を感じさせるような振る舞いだ。
さらにはしばらくして resフォルダを覗くとサーバーからの返答が確認できる。これもまるで誰かがそっと置いたように。
もちろん処方せんファイルには厳格な命名規則があり、また処方せんそのものの定められたフォーマットを作りあげるにはそれなりの時間を要するのだが、すべて正しく作られていれば、reqフォルダの届け物は間違いなく基金サーバに運ばれ、そこで記述された処方内容はサーバ空間に共有され、どこの医療機関でも確認できるようになり、つまるところ、めでたく電子処方せん対応の診療機関となる。
いうまでもなく電磁気力はPCやTVをはじめとする現代のエレクトロニクス文明の基礎をなす力であるわけだが、普段の生活ではなかなかそれを”力”として意識できないのも事実で、ひょんなことで”実感”できたのは楽しい経験だった。
今後、このシステムは電子カルテにも応用され、resフォルダー、reqフォルダのなかをさらにさまざまな情報が行きかうことになる。それは今とは違った医療の未来図を描くのだろう。
ただ気になるのは、お上の、いわゆる医療DX化への介入の仕方だ。ちまたでいわれているように、一度に保険証を廃止するなどあまりに強引すぎる。
さらにはマイナの利用率が低い医療機関には個別に指導までするという。自らの拙速なやり方の瑕疵を認めることもなく、どこか近くの権威主義国家と見まがうほどの横暴さだ。
そこにはうねうねと漂う、自然界にはない不気味で理不尽な第5の力が見え隠れしているような気がしてならない。