空家連鎖

空家連鎖という理論があるらしい。11月号の日経サイエンスに載っていたものだが、短い論文なので詳しくは分からないが、長い論文だとますます分からなくなるので多くを想像に頼るしかない。どうやら人間の行動に関しての新しい規範を提示できるかもしれない理論のようだ。


著者であるストーニーブルック大学の研究者はロングアイランドの海岸でヤドカリたちが貝殻を使い回ししているのに気づいた。
そこで学生らを引き連れ、ヤドカリを掴まえ貝殻からそっと引き出してはほかヤドカリたちがどれくらい空いた貝殻に移るのかを調べたところ、1匹のヤドカリが新しい殻を見つけ引っ越しすると、2から3匹のヤドカリがグレードアップを求めて空いた殻に移動するということが分かったという。
これだけだったら小学生の夏休みの研究にでもありそうな発見だ。最後に、「ヤドカリが新しい貝殻に移るとき、やっ、とかけ声がして、どかり、と音がしたような気がしました」などと締めくくればなにかの賞の一等ぐらいは狙えるだろう。
だが内容はもっと奥深いのだ。
もともと空家連鎖とは、社会学、経済学で用いられた用語で、1960年代、公共の住宅開発の研究で気づかれた現象をもとにしている。その研究でこんなことが判明しいた。
アパートを一つ造ると、それまでの水準よりよりよい住宅環境を求めて、およそ2から3家族がよりよいアパートを求めて引っ越ししていた、というのだ。
こうした現象は住宅にかぎらず、たとえば新車を得るために持ち手の車が中古車として下取りされると、平均3人に中古車の所有権の移動が起こるとか、あるいは米国の聖職者協会のなかで伝道師の引退や死亡、あたらしい教会の設立が起きると、2.5人から3.5人の、いわばトコロテン式の移動連鎖が起こっていたという。
ストーニーブルック大学のこの研究者が見つけたのはこの連鎖がヤドカリにも人と同じような数値で起こっているということだ。つまり人でもヤドカリでもこの2から3という数字に落ち着いているのだ。その背景には未発見の原理があるかもしれないという。
とても興味を引く研究だが、問題はこの数値だ。ヤドカリのくだりで筆者はこう記述している。
「この数を聞いてがっくりする人もいる。もっと多く、1つの連鎖で10匹以上、多ければ50匹ほどが利益を得るだろうと期待しているからだ」でもそれは違うらしく、「たとえ新しい貝殻を獲得したのがたった2匹でも、資源を売る個体数は典型的な競争と比べて2倍なのだ」という。
はっきりしておこう。それは話が長くなると分からないのではなく、短い話でも分からないということだ。
それだけではない。もうひとつはっきりしていることがある。それはこの研究はグローバルな視点に立っていないということだ。話が分からないからこそ、自信をもっていえる。
日本では事情が違うのだ。こうした住む場所が変わる連鎖は、おそらく10に近い数値になるはずだ。わが国の研究がそれを明らかにしたとき、この現象は「所ten連鎖」と呼ばれることになるだろう……ってわけないか。

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