警察機構の詳細かつそれぞれの部署に配属された人間感情の微細な記述に比べるとややプロットには緻密さが欠ける、そんないわば奇妙な不等式を想起させる推理サスペンス小説であった。
とはいえ、因数分解の問題で、ひとつの因数を示すような野暮なことにもなるかもしれないが、あえていうとジェンダーバイアスが事件を解く重要なキーワードになっていて、興味深い。
たとえば女性であるがゆえにしかるべき地位に付けず、多くの女性が教育や就労の機会を奪われているのは今でも現実だろう。そうしたジェンダーバイアスを背景にして事件は起こり、また事件の解決に手がかりを与える。
作者が女性だからだろうか、きっとそんなバイアスによるなんらかの経験があったのかもしれない。
などと想像してみたが、待てよ、なぜそう思うのか。数学のテストのとき答えを見直すように先生からいつもいわれていたではないか。
作者の名前は 伏尾美紀。美紀はおそらく女性に付けられることが多いだろう。だが、よく考えると男性の可能性だってあるではないか。
おっと、あやうくジェンダーバイアスに陥ってしまうところだった。たとえば、男性であるこの院長の名前を「やす子」に変えたとしても、だれからも文句をいわれる筋合いはないはずだ。名前にバイアスを持ち込むのは今後やめにしないといけない。
それにしても、もし推測したように、作者名にジェンダーバイアスを組み込んだ作品であれば、この仕掛けはミステリー界の特異点とでもいうべきものかもしれない。
ネットで調べれば作者の性別は判明するだろうが、今後の楽しみのひとつに残しておこう。作者の今後の活躍次第でマスコミへの露出も増え、自然と解が求められることになるだろう。
きっと四色問題の解決が要した時間よりは早いはずだ。はいーーー。