素数の音楽

翻訳単行本の初版が2005年とある。なぜこんなにわくわくするような本を今まで書店で見つけられなかったのだろう。まるでAKBの「ヘビーローテーション」を何年間も聴きそびれていたのも同然のくやしさだ。
題にあるとおり、素数についての本でリーマン予想を中心に数学者が素数というものにどう取り組んできたか、そしてどう取り組もうとしているかを素人にもわかりやすく説いている。それぞれの数学者の人物像を交えながら人の叡智というものがどういうものかを教えてくれている本だ。



ほんとうに感動した。だがこの感動は偽物だと思う。
書かれている数学の内容が2,3割程度しか分からないのになぜ感激できるのか。なぜ分からないのに堂々と「素人にもわかりやすく説くすばらしい本である」などとたやすくメモすることができるのか、そんな事実をちょっと考えれば分かりそうなものだ。
これはきっと、むかしアポロ13号の映画を観て観劇したのと同じ質のものなのだろう。操縦不能に陥ったアポロをその船員と地上のスタッフたちが知恵の限りをつくしながら無事地球に帰還させた実話を映像化したあの映画。観を終わったあと、ああ、なんと人間というのは賢いものなのだ、と感銘を受けたがそのうちに自分が間違っていることに気づいた。違うのだ。ああ、なんと彼らは賢いのだ、が真実で、この院長は決して賢くはないのだ。人間という範疇でくくることで自分もその賢い人たちの一員だと勘違いしてしまったのだ。
それと同じ感動をこの本で受けてしまったのだと気づいた。
とはいえ実際に感動したのだ。
この、あるのかないのか分からない感動とはいったいなんなのだ。これを数学者は虚数的感動と呼ぶのだろうか-といった、本の内容にかぶれた、そして、どうでもいいような、かつますます自分がみじめになるようなメモをしたくなる本でもあった。

ちなみに著者ソートイさんのほかの2冊をすぐさまAmazonで注文しました。

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