火星

 今晩、六万年に一回の天文ショーとのことで、ニュースは火星の大接近でにぎわっている。確かに子供が宇宙に関心を寄せるいい機会なのかもしれないけれど、よーく考えるとただ近づくだけのこと。それぼど気持ちが踊るものじゃない。
 そんなことよりときどき往診に行く老人病院で経験する、痴呆老人の急接近とかのほうが、よっぽどワクワクするだけど。病棟に入っていくと、どなたというわけではないんだけど、入院している老人の方がそれまで座ったりして動かなかったのに、なんだかボクを目指すように、遠くからゆっくりゆっくり近づいてこられることがあるのね。


 でそのまま様子を窺ってると、だんだん近づいてくる。あーやっぱりボクに関心があるだと思っていると、無視して横を過ぎ去っていくなんてことがしょっちゅうある。
 要するに徘徊されているだけのこと。でもきっと形にはならないけど、深く深くなにかを考えておられるんじゃなかろうか。沈思黙考して歩いておられるのじゃなかろうかとか思っちゃうわけね。
 で、50年後のクリニックの風景はこんな風。
老スタッフ 「もういい加減、徘徊はやめたらどうですか」
ボケ院長  「…」
老スタッフ 「モウロクしたんですか?いつからウロウロしているなんて覚えてないんでしょ?」
ボケ院長  「…モウ、ロクまんねん」
 関心あるなしに関係なく今晩は曇りで火星は見えないようで。

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