「感じる数学」

院長の休暇はタクシードライバーとしての労働期間でもある。盆休みを利用していった北の大地でレンタカーを借り、ハンドルを握って向かったのは「感じる数学」展だった。

狭い空間に展示されていたひとつが、ゴルトンボードだ。釘のような突起物が並び、上から放られた小さな玉を下部で受ける筒がいくつか準備されている。
球が釘に当たり正確に半々の確率で左右に落ちるよう調整されていれば、たくさんの球を上から落とせば下の筒には山のような形ができるという代物だ。考えてみれば不思議なボードで、直観的には筒にはばらばらに球がたまりそうなのに、それが山になっていく。

会場では実際に大きなボードが用意され、上から入れられた球が下で山のようになっていくのを見ることができる。
謳い文句にそぐわず、とてもいい展示だと感じた。

ところが、実はそこに展示してあるボードは、”7号機”だという。最初のものはばらばらにしか球は集まらず、これではいけないといろいろ試行錯誤して7号機までに至ったと、そばに置いてあった小冊子に解説してあった。
つまり確率的にきちんと半々で左右に分かれていなかったのを改良していったということだ。

ああ、そうなの。だったらなぜそれらを展示しなかったのだろうか。そうすれば起こる確率が半分に近づくにつれ、より山形になっていくことを感じとれるのではないだろうか。

小冊子には夏休みの宿題に作ってみては、と提案してある。でも7号機までいたった先生方はいわば正解を知っていたわけで、初めて作る子供たちのなかには、やっぱり出鱈目に並ぶということで納得する子も出てくるのではないだろうか。

長時間のハンドル操作で疲れた体と頭は、そんないーわ感も感じたのであった。