出生率

 日本の出生率が1.3近くに減少したという。この数値が、人口が減るどころか、日本人がいなくなるというきわめてゆゆしき問題を含んでいるということを、一体どれほどの人が認識してるんだろう。
 毎日飲めるビールの本数が、3本から2本になった事態に匹敵するほど、重大な問題なのだ。そういう院長でさえ、メモするまで気づかなかった。


 だいたい出生率というのが分かりにくい。”女性が一生のうちに産む子供の数”を意味するこの用語の理解を妨げる第一の理由は、のんびりと時間が流れる過ぎるからだ。
 クリニックのまわりを見ても、田圃のなかに新築の家が建ち並び、こんな田舎でさえ今から先、人口が減り行くとはとても思えない。しかし建ち並ぶ割にはクリニックの患者が増えないのとは違う理屈で、この出生率の減少は秘かに人口の増加を押さえているのだ。
 つまり理解を容易にするための第一歩は、時の流れを短くすることである。というわけで、ここでは人の一生が一日だと考えよう。
 この数値を理解する第二のポイントは、男はどんなにがんばっても子供を産めないということだ。これは、院長がどんなにがんばっても、ビールをやめない事実をみれば明らかだ。
 そして、セックスには、男と女しかないということ。その間に横たう深い川でなんど溺れかけたことか。その回数に関係なく、世の中、男と女の二つしかないというが最後のポイントだ。
 さぁ、三つの事実を手にした今、理解は栓を抜かれたビールの泡のようにふくらんでいく。
 ある一日の初めにいた男と女の同じ数の人口を保つためには、いったい女性は子供を何人産めばいいのだろうか。もちろん一日の終わりには最初にいた男と女は死んでしまっていなくなる。
 一人の女性には一人の男性がいて出産の作業に入る。
 三人生めば、数の上では、子造りに励んだ男女がいなくなっても、プラス3で結局人口が1増加することになる。では、女性が平均的に二人生めばどうなるか。もちろん男と女が生まれるのは半々だ。(注)
 この場合は、一日の終わりには二人なくなっていても、新しく男女が生まれてるから、ちょうど同じ人口が保てるのだ。
「あ、そうか。冷蔵庫のなかのビールを二本消費しても、二本買い足しておけば、ちょうど同じだ」と理解できれば、もうゴールは近い。
 では、もし、出生率が2より少ないとどうなるのか。たとえば1.8人だとしよう。一日の終わりには、子造りに励んだ男女はいなくなり、残るは1.8人という子供の数ということで、人口が減ることになる。
 冷蔵庫のなかのビールを二本消費したあと、1.8本しか買い足さなかった場合を考えてみれば、このことは容易に理解できるだろう。0.8本などというプルトップの空いたビールなど、あっという間に院長の胃のなかに入り、たちまちのうちに貯蔵ビールは減っていくことになるのだ。
 かくして日々悩める院長のビールは、やはり一日に3本にしてもらいたいものである。

(注)神様は男に苦労させるのが好きらしく、男の方が生まれやすい。つまり平均二人ずつ生んでいると、ビールの数の決定権を有する女性の数は減っていることになる。二人より多く生まないと、同じ人口が保てない。