クリニックの電子システムは、院長が食べるのも忘れ、ビールを飲むのも忘れないで、数か月かけて作り上げたものだ。だがただひとつ、あるプログラムが数年前までできず、有償のソフトを利用していた。
それはある作業をチェックするプログラムだ。
診療行為は厳密なルールの下で行われている。すべての医療行為に対し、投薬を含めたあらゆる処置が対応するという、ここのいいかげんなメモでは考えられないような厳密なルールが適応される。そのルールに反すると保険者からお金が支払われない。いわゆる取りこぼしが生じ、たとえ少額でも院長のような弱小クリニックにとっては大きな痛手になる。
たとえばAという薬があるとしよう。それに使える病名は厳密に決まっているのだ。くすりはAだけではない。BもあればオロナミンCもある。という具合に幾多もある薬に使える病名をそれぞれ数え上げれば、いまクリニックで使っている薬だけでも病名の数は膨大なものになる。
薬だけではない。いろんな医療行為に対しそうしたルールがあるのだ。
ひとつや二つであれば可能だろうが、それらをすべて列挙するのはプログラミング的にちょっと無理かな、とあきらめていたのだが、ネットサーフィンしていたときに出会ったフリーソフトに遭遇して、がらりと見方が変わった。
開業医の先生が作られたソフトなのだが、そこでのアイデアはとても魅力的なもので、自分が行った診療内容や薬剤から病名のデータを作り上げていくという発想がそこにはあった。
たとえば、Aという薬が飲酒過多腹痛(注)という病名に適応があれば、院長のような患者がクリニックに来て腹痛を訴えれば、「ああ、飲酒過多腹痛だな」としてAを処方し、処方したあとにA薬剤は飲酒過多腹痛の病名に対応しているというデータを作ればいいわけだ。
いわばトップダウンではなくボトムアップともいえる手法だ。だから膨大な適応病名を準備する必要はなく、自分が行った診療行為や薬剤の適応病名をそのつど追加していけばいいというわけだ。
さっそく制作にとりかかり作り上げた。
市販の高価で大きななソフトに比べれば、ごくごくちっちゃな並のものなのだが、できがったときに口をついて出てきた歌はもちろんこれ。
「上を向いて~歩こう~、並だが、こぼれ~ないよう~に」
注:「飲酒過多腹痛」などという病名はありません
(1月25日投稿)