馬油

さる9日から10日にかけて行橋から別府を目指す100キロウォークという大会に参加してきた。ウォーキングという名の付く企画に参加するのはこれが2度目のことで、かつ100キロなぞ歩いたことがないのでどんな展開になるのかまったく予想が立たない。それだけでなくゴールは別府ではなくこちら地元の幼稚園なのだ。
というのは10日は子供らの初運動会で、間に合うように戻ってこいとカミさんからの至上命令が出されていたのだ。別府から地元まで電車と車を乗り継いでいくら急いでも2時間ほど要する。それにゴールしてから風呂に浸かって身を綺麗にしひげを剃って、ついでにウンコなんかもしていたらゆうに3時間はかかってしまう。
いくらなんでも無理ではないか。そう反論したかったがカミさんの目は本気だ。小心者としては黙って頷くしかなかった。


そのためには入念な準備が必要だと頭を切り換える。ウォーキングの体力はもちろんだが、たかが1,2ヶ月でそう変わるものでもないだろう。だが物質的な準備は違う。多少出費を伴おうがとにかく完璧に準備できるはずだ。
自分は臆病者だと語っていたデューク東郷を思い出す。そうだ、俺はゴルゴだ。いろんなありうる状況を想定して周囲に目を配る、その準備さえしておけば勝利はこの手に入る。リタイアという言葉よ、黙って俺の後ろに立つな…そんな気持ちになって詳細なチェックリストを作りあげた。
そのなかに馬油というものがあった。大会の案内文にもこれを使うと肛門周囲の痛みが防げるとわざわざ書いてある代物だ。さらには過去参加したことのあるご婦人からのアドバイスでぜひ使うことを勧められていた。ウンコのあとは特に入念につけろとまで女性からいわれたのだ。そこまでいわれては準備しないわけにはいかない。だがとんでもないことに肛門に塗るのを忘れたまま昼の12時、スタート地点に立ったのだった。
歩き始めてほどなくそのことに気づき早速リュックから取り出してつけようとしたのだが、この大会のために購入したお尻や膝をサポートするタイツが肌にぴったりくっつき肛門まで手が届かない。かつ河川敷や海岸沿いやほとんど遮蔽物のない国道沿いを黙々と歩く3600名ほどの集団はそうそうばらけそうになく、そんななかでタイツを下げ肛門へ必死に手を伸ばそうとするのはゴルゴのやることではない。
しかたなくそのまま歩き続けのだが、気づけば馬油を使わないまま幼稚園へゴールし、眠たい目をこすりながら子供らを応援し、無事カミさんからのお叱りを受けずにすんだのだった。
でも不思議なことに肛門はなんともない。痛くとも痒くともないのだ。途中ウンコもしたがそのときも忘れてつけなかった。なのに、なぜなのだろう。考えに考えた末出たゴルゴの結論はこうだった。
俺のケツの穴は小さいのだ。

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