荒らし

 今日、ボクが嘱託医をしている施設で、フリーマーケットがあった。ちょっと自転車で汗をかいた後に行ったので、もう終わりかけに近かったけど、それでも十近く張られた野外テントの前にはちらほらとお客さんが。


 ボクもザーと見て回わるなか、あるテントの前に置かれたクッションに目がいく。雑誌を一回り大きくしたくらいの大きさで、フリース地の表面にクマのアップリケが付いている。なかに同じ生地のシーツが入っているらしく、どうも赤ちゃん用のものみたい。枕にも掛け布団にも使えますというわけ。
 厚さはそれほどなく、むしろ薄目でなかのものは使用せずとも、パソコンする際の肘当てにでも使えるかなと思ったのね。
 お値段は、500の字が線で消して、横に新たに書かれた300円。時間も押し迫っていたし、売れなかったから値引きでもしたんだろう。
 で、もう一度見て気に入ったら買おうかとそのテントのとこに戻ったんだけど、60才ぐらいのおばちゃんがすでにそれを手にしている。
 おばちゃんも気に入ったんだと、なんとなく仲間意識が芽生え、「それっていいですよね」と声をかけたのね。
 でもおばちゃん、振り向き見せず、値札を見ながら、こういうじゃないの。
「あ、これさっき、新品を200円で買ったよ」
 テントのなかにはそのおばちゃんと同じぐらいの年の女性が三人いたんだけど、少し動揺した様子。横にいたボクも驚き、つい、「どこで買ったんですか」と訊いてしまうしまつ。
 女性軍の一人が、「じゃあ200円でいいです」と返事したんだけど、ボクの質問にもなかの女性の返答にも一切答えず、くだんのおば ちゃん、ずかずかとテントのなかにはいっていく。そこにも品が無造作に置かれてたんだけど、そのなかからバックを取り出して値段を女性軍に訊ねる。
 500円から始まったんだけど、おばちゃん、「150円」の一言を繰り返すだけ。結局3,4回、徐々に低くなった値段が提示されたけど、「150円」にたどりつき、ようやくおばちゃん、「はい」とお金を出して、またよそのテントへ移っていかれたのね。
 瞬間に頭をよぎった言葉が、「荒らし」。
 掲示板とかチャットとかに押し入って、話をごちゃごちゃにするような人を指すようだけど、あの用語って日常生活でも使うときがあったかなぁ。どうも自信ないのだけど、やっぱりあのおばちゃん、「荒らし」って気がするんだけど。
 でも、アップリケのついたクッション、ほんとに買ったのだろうか。間違いなく、「さっき買った」っていってたんだけどなぁ。
 もし買っていたら、お孫さんでもできたのかなぁ。
 その赤ちゃんがクッションを枕に寝ているとき、あのおばちゃん、きっとこんな歌、歌うんだろうなぁ。
 こんにちわ、赤ちゃん、アラシがババよ。

購入意欲がきっちり荒らされたため、結局クッションは買いませんでした。

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