方向音痴

 今日、雨のなかちょっと長めのランニングをやった。コースは近くの川にそって下流まで向かうというもの。前の晩からの雨も手伝って水かさが増してるため、河川敷は走れない。といって、土手は歩道などない片道一車線の車道で、危なかしくって、とても走れない。
 というわけで、土手に沿った道を走ってたのね。


 住宅地を抜け、たんぼ道に入ったときのこと。向こうからトロトロと軽自動車がやってくるのに気づく。広い割にはその車一台しか走ってないたんぼ道。当然、注意は向けられる。見てると徐々に速度を落としてくる。すれ違う段になって、車は停車し、中から50代のおばさんが運転席から声をかけてきた。車体には若葉マークが貼ってある。
 近郊の街の駅はどこかという。どうも教えられた道を進んでいるうちに迷ったらしい。
 川の下流に位置するその街は、車が来た方角とは全く逆方向なのね。で、とにかくUターンをするようにいうと、分かったとの意思表示のあと、上流に向かっていく。すぐ追いつくだろうと、ランニングを続けたが、なかなか来ない。きっと若葉マークが路上で何度も行き来したんだろう。300mぐらい進んだときだろうか、ようやく追いついてきた。
 下の道はよくしらないし、大きな目安がある道の方がいいに決まってる。
 で、説明開始。
「土手が見えるでしょ。まずあの土手に乗ってくだされ」
 川はスペースシャトルからでも見えるかも知れない一級河川。その目印を利用しないわけはない。
「土手をずっと走ってくと、橋があるからそれを右折すれば、駅方向です」
 橋まではおよそ10分ほどとの心優しい解説も付け、おばさん納得。人生の道を迷う者同士の微かな友情を感じつつ、その場は別れた。
 それから数分ほど経った、住宅街に入ったときだった。
 またおばさんの若葉マークが土手の方から進んでくるじゃないですか。
 おばさんもこちらに気づいて停車し、運転席から、「方向音痴なもので」と照れ笑いを浮かべる。
 あのね、なんにも考えずに進めば、橋があるの。まだ先の方だけど、必ずあるの。それをなんであきらめて土手から降りて来たの?車の少ない下の道を走るだけでも疲れるのに、土手の道はもっと疲れたから。つまりドッテも疲れたから…とっても疲れたから。
 それとも土手に乗れなかったのかしら。土手だから、ドッテも乗れなかった…どうしても乗れなかった。
って、これじゃ方向音痴というよりも、方向トンチだね。

土手の道が無理みたいなので、下の道で進路のだいたいの方向をお教えして、また別れました。それから数百メートル走ったでしょうか。おばさん、人ンチの庭で車を止め、携帯をされておられました。道路に垂直に停車されておられましたから、きっと上流でも下流でも進める体勢を取っておられたんだと思います。
それからまた数百メートル進んだところで、おばさまに追いつかれました。追い抜きざま、おばさん、舌をペロっと出して会釈されました。きっとチロチロとヘビのように舌を出しながら、クネクネと道を進まれたことでしょう。

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