好み

数日前のこと。歯の詰め物がはずれたため、その日の夕刻、取れた詰め物を持って近くの大型シ、イオン、ピングモールにある歯科を受診した。初めての所で問診表を渡される。
症状を書くとともに保険の枠内でしたいかどうかやインプラントに関心があるかなど10個以上のチェック項目がある。

4月から双子の中学 授業料 が発生するこの身ゆえ支出は出来る限りおさえたいので、気になる所だけを保険の枠内でと○をつけ、ほかの箇所は適当に答えて提出した。

先客は3人ほどでそれほど待たずに診察室へと、呼ばれる。

スタッフが歯の状態をいろいろ調べたのち、別の診察台で治療をしていたこのオヤジよりいくぶん若めの歯科医が登場。

お互いよろしくとのあいさつを交わしたあと、診療が始まった。口の中を見ながら聞きなれない言葉をスタッフと会話しながら発していく。スタッフが調べていた歯の状況が合っているか確認しているようで、よくある歯科診療風景だと 成り行きを見守っていた。

すると二人がなにやら議論している。インプラントをしている箇所がいくつかあるので、それに関するものだろうと素人ながらに思う。どうやらインプラントしている箇所がはっきりしないようだ。やがて議論は終わり、「では今日は戻して置くだけにしますね」と詰め物を接着剤でつけてくれた。
しばらく歯を噛みしめたのち、スタッフがうがいを促す。

確認のため、再度先生が口の中を観察したあと、よく聞き取れなかったが、スタッフにじゃあパノラマ云々と声をかける。
パノラマ?とっさにきっと顎を台に固定してアームが頭の周りを回転し歯のすべてを写し出す検査だとの思いが頭をよぎる。

実はその検査をここ数ヶ月で2回受けていたのだ。1回目は なんとなく釈然としない形で、2回目はあたり前の検査として。

最初のことの次第はこうだ。
歯の一部がなんとなく欠けているよう感じが続いたため、またその頃はなかなか時間が取れず、診療手伝いに行っている病院に近い、これも初めての歯医者に行った時だった。歯は欠けていないとのことで安心したのだが、ここでもパノラマレントゲンの検査をされた。
まぁ見るだけの診察料はたかがしれているはずで、医療の同業者としては経営に協力してもよかろうとの思いがあったは事実だが、撮ったのはいいが、説明もなく診察は終了。先生は慌ただしくほかの患者の診療にあたっており、こちらも別用で急いでいたのでそのまま医院を後にした。

2回目はインプラントの調子が悪くなった感があり、治療を受けた近郊の都市まで足を運んだときだ。
結果は問題なかったが、それはパノラマ撮影をして確認してもらってからレントゲン写真での診断を得てのこと。

ということで短い期間に2回ほど顎に放射線を受けていた。

ところで放射線の影響は蓄積する。お金は貯まらないが、放射線で惹き起こされた遺伝子の影響はそのまま引き継がれ、また新たな障害が起こればそれも引き継がれることになるのだ。
もちろん歯科診療でもちいる放射線の量はおそらくたかがしれているのだろうが、できれば浴びないに越したことはない。

だからスタッフから検査を促されたとき、とっさに心の内を吐露した。
最近何回かそのレントゲンを撮ったんですが、と。
うまく言えなかったが、拒否の意向は伝わったはずだ。かつ問診表で最小限の診療でいいと申し伝えているのだからこれは拒否する権利はあるだろう。

するとスタッフは席を立ち先生と何やら相談し始め、やがて先生がこちらにやって来た。
そしてこういわれたのだ。

「レントゲンは好きではないですか」

こちらはすぐさま「そんな好きとか・・・」と小さくつぶやいた。漫画であれば吹き出しに「そんな好きとか嫌いかじゃなくて」と書かれてあるはずだ。

そう、間違いなく好き嫌いの問題ではない。手術と一緒でレントゲンを撮ることはある意味、小さな傷害を与えることなのだ。だから免許が与えられたものだけが、必要なときだけ行ってもいい医療行為なのだ。

もう一度いわせてもらおう。レントゲンを撮るか撮らないかは好みの問題ではない。
問題は、ほとんどないにしてもオヤジの身に小さな傷がつくかどうかであり、つまりは、この身の問題なのだ。

<結局レントゲンは撮らずに済みました。感じのいい先生だったので、診察室を出るときは「なにかあったらよろしくお願いします」と大人の対応で、きっちり頭を下げてきました。>