ラン

 バイクが終わると、ランが始まる。頭痛が治ったと思ったら下痢が始まるようなものなのね。
 このトライアスロンのランにはいくつかの走り方がある。


 まず、なにかに憑かれたように走り続ける人。そうした選手は、エイドといって水とか食料を補給する場所があるんだけど、そんなところで止まることなどせずに必要なものだけ手にして走り去る。ランってのは走る競技だから当たり前のようだけど、これがなかなかできず、上位の選手しかこのワザを披露できない。
 次に、なにかに疲れたように走る人。だいたいが肉体的疲労だが、人生に疲れたように走る人も、少なくとも日本に一人はいる。
 この部類の選手は、エイドで止まり、十分補給をしながら進む。
 最後に歩いてる人。ただし歩いてばかりじゃ制限時間内にはとても間に合わない。というので、ときどき走り、ときどき歩く。
 これを業界用語で、「キセル」というのね。電車の定期券の不正使用のときに用いる「キセル」と一緒。
 このキセルをするとき、目標を定めて進むときがある。あそこの交差点まで歩こうとか、電信柱3本分は走ろうとか。
 で、皆生大会でのこと。走ってると前におねえさん選手が歩いていた。スイムとバイクで大きく遅れをとっていたので、完走もおぼつかない時間帯で、人のことなど心配なんかする余裕もないんだけど、それでも弱者は弱者どうし、心配しあってるもの。
がんばれよ
 足は速いけどバテバテというわけ。で、やがてこちらが追いつく。でもおねえさん、すぐにまた追い抜き、同じような距離のところでまた歩き始める。こちらはスローペースの同じような速さで進んでいる。それでも走ってはいるわけだから、やがてまた追いつく。すると、おねえさん、すぐにまた走り始める。
 どうもおやじランナーが追いつくまで歩こうとされてたようなのね。
 電柱と同じにされたようでなんとなく不愉快になり、あるとき抜かれたあと、ピッチを上げて彼女のすぐ後に付きながら走ってみた。彼女が頃合いを測って歩き始めたとき、すぐにこちらが追いつき、おねえさんびっくりするはずだろうという魂胆ね。
 でも追いついた途端、平然とまた走り始め、今度は止まらずにずっと先まで行ってしまった。
 きっとリズムを取り戻したんだろう。あの調子では、随分と順位を上げていったはず。
 でもね、それもこれもみな、おやじランナーが電柱の代わりになってくれたおかげだということをぜひ忘れないでほしい。
 そして、こうした「キセル」を「恩を着せる」というんだよ。
 などと疲れた頭で、我ながらいいネーミングだと感心しながら、ゴールを目指したわけで。

 実はお腹の調子が悪くて、ランの最中に三回もトイレに駆け込みました。バイクのときマークしたおばさんは、その際に抜かれたようでゴール近くになって追いつきましたが、三回目のトイレに行くときにまた抜かれてしまったようです。
177番の竹内久美子さん。またどこかのレースでお会いしましょうね。

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