おもてなし

流行語大賞の候補がいくつか挙がっているようだが、そのなかの一つに以前から釈然としなかった言葉があった。オリンピック誘致で滝川クリスタルさんが口にした『お・も・て・な・し』だ。国内で彼女の言葉と動きが受けたのは間違いない。でもオリンピック誘致に関しあのアピールは外国の人たちにどれほどのインパクトがあったのだろう。少なくとも海外メディアが彼女のプレゼンを高く評価したという記事には触れていない。
そもそも日本の「おもてなし」というのは、彼女が強くアピールしたようなものでない気がする。


初めての小さなスナックに入ったとしよう。「いらっしゃい」のいくつかの黄色い声で迎えられる。それに気をよくしながら、ゆっくりカウンターのイスに座る。するとカウンターのなかの女性がおしぼりを置き、次にいかにも安そうなスナック菓子をそっとテーブルに置く。いわゆる「つけだし」だ。そして彼女はカウンターの裏で伝表になにやら書き込む。
「つけだし」は、きっと100円か200円程度のものだ。そしてカウンターの裏で書き込まれた数字は4桁ほどのものなのだろう。
でもそれでいいのだ。むしろそれが『お・も・て・な・し』だ。カウンターの裏だけで、『表・な・し』でもいい。それが日本の『お・も・て・な・し』ではないかと思う。
もし「つけだし」に値札がついていれば、それはすでに『お・も・て・な・し』ではない。100円だろうが、1000円だろうが、そんなことは相手に告げず、さりげなく迎える-ついでにいうと、こころを込めて-のが、真の『お・も・て・な・し』ではないだろうか。
顔の前で手に力を込め、そして口にする『お・も・て・な・し』、とはほど遠いと思う。
そんな風に思うのだが、いいたいことはうまく伝わっているだろうか、心配だ。
うーん、もうひとつ例を取ってみたい。たとえば滝川クリスタルさんがこのメモを読んで殴り込んできたとしよう。
「じゃあ、あのパーフォマンスは無駄だったとでも思っているの」なんて詰め寄られているわけだ。こんなときこそ真のおもてなしを示すチャンスだと知るべきで、そのときはこう答えるのだ。
そんなことは『思って・な・し』
うーん、やっぱり伝わらないだろうな。

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