「銀の匙」

我が家の構成は、カミさん、双子の高校生、院長で、だれひとりとして”葛飾北斎”の字を満足に書けないほど、美術に通じているものはいないのだが、不思議なことに旅に出るとよく、その土地の美術館に立ち寄る。
今回の北の旅でもそうだった。

広大な敷地にある美術館では「銀の匙」特別展が行われていた。
まったく前知識がなく、あとで分かったことだが、1500万部も売れた人気コミックの原画展で、北海道の農業高校を舞台とした、高校生たちの学業や労働、命や恋愛をめぐる葛藤についての物語だ。
そこでの思い出を二つメモしておきたい。

受付でチケットを買うときのことだった。どういうわけか一般1,400円→700円、高校・大学生900円→450円と観覧料が通常価格の半額となっていて喜んだのもつかの間、受付のおばさんが高校生であることを証明しろという。
ひとりは学生証を持っていて問題なかったのだが、もう一人は手元になく、いくら双子だといっても証明できなければ一般料金だとおっしゃる。

たしかに仕事に熱心な方なのだろう。ただこちらがまるで嘘をついているような態度で臨まれると、お金にしてたかが250円の差だが、なんとなくむかついてくる。
時間がもったいなので、一般料金でいいとこちらから切り出し、それではと、具体的な表現は忘れたのだが、ウェルカム的な挨拶を受けた。
院長はといえば、なにがウェルカムだ、と相手に聞こえるような程度の小声で、さっさと館内に入っていった。

コミックの原画展など初めてなので、なおかつどんなストーリーかも知らないのだが、登場人物たちの熱気や青春のすばらしさ、なつかしさが伝わってきた。

結局コミック「銀の匙」の思い出は、帰宅後購入した全15巻として我が家で結実しており、そして窓口でのごたごたは「金の些事」として思い出に浅く残ったのであった。

null
札幌芸術の森美術館