「それまでの明日」

店頭で平積みしてある本の背帯に、云々の1位とか2位とかの文字があったので買ってみた。
作家さんには大変申し訳ないが、北の金さんの国ではないので、素直な読”中”感想をメモする。
実は、40ページあたり止まってしまっているのだ。

こんなことは、とてもとても若いころ「斜陽」を読んでいて、あまりのアンニュイさに本をはさみで切断して以来だ。(本をそんな手荒に扱ったのは後にも先にもそのときだけ。今では信じられないくらいピュアだったんだなぁ)
それはそれで太宰の成功なのかもしれないが、いまくだんの本は、ページをめくるどころか、持つこともしなくなった。

そこの箇所にいたるまで、出てくる会話に漠然とした違和感があった。だがビルテナントの金貸し業者に強盗が押し入り、居合わせた主人公ら客とスタッフ数名を人質にしたシーンで、違和感は閾値を超えてしまった。

賊はカウンターに石油缶を置き、指示に従わないと缶を打ち抜くと脅したあと、まず人質らに各々の携帯をポケットから出すように告げる。もともと携帯を持っていない主人公はじっとしているのだが、客のひとりがそれを賊にチクると、賊はその男にこう指示する。
「おまえがあの男の身体検査をしてこい。ただし、持っている携帯電話をわざと見逃したりしたら、二人ともどういう目に遭うか、わかっているな」
指示された客はこう反論する。
「そんなことは困る。ひとのポケットなんか一度も探ったことはないんだから、見過ごしたからといって、ひどい目に遭わされるなんて、絶対に困るよ」
「指示に従わなければこのガソリンをどうすると言ったか、忘れたのか」
この押し問答のあともその客は動こうとしなかったが、そのとき、ほかの客が手を上げ自分が身体検査をしていいかと賊に尋ねる。賊がその理由を訊くと
「ガソリンをぶちまけられたり火を点けられたりしたら大変だからです。ぼくたちはこの状況では、あなたたちに協力するしかないんです」
賊は了解しこう告げる。
「志願者はなかなかのハンサムボーイだな。いいだろう、おまえが身体検査をしろ。だが、手を抜いたり、余計なことをしたら、ハンサムだからといって容赦はしないぞ」

で、その客は主人公のからだを探るのだが、その際、二つ持っていたと思われる携帯のうち、賊に提出したものでない携帯を主人公のポケットに忍ばせる。話の重要なポイントなのだろうが、その後どう展開していくのか分からない。

それより自分だったら携帯を持っているかどうか確かめるためにどうするだろうと、つい考えてしまった。たとえば裸にさせ脱いだ服やズボンを壁に思い切りたたき付けポケットに固いものがないか確かめるというのはどうか。そもそも人質を下着だけにしてしまえばいいのではないか。

いずれにしても田舎芝居の会話のようで、不自然で明らかにフィクションの世界にいるのを自覚させられるのだ。

もちろんそうした不自然さが今後の展開につながっていくことも十分考えられる。いまこうしてメモしているとひょっとして、携帯を渡した客は賊の一味かもしれないと思い始めているのだが、仮にそうであっても、読んでいる世界がフィクションだと明確に自覚してしまっては読みつなぐことができなくなった。

題名の意味も読み進めばなるほどと腑に落ちるシーンに出会うことになるのだろうが、残念ながら今の時点では分からないままだ。

読書を放棄するのはまことに忍びないが、それよりも、ハイ「それまで、の明日」の展開の方が、よほど面白そうなのである。

(ゴーン容疑者4度目逮捕 Yahooニュース)