利き手

　ウチの犬は利口だ。”オスワリ”や”マテ”ぐらいヘのカッパだ。ただ残念なことにその芸の披露は空腹のときに限られる。うちのエサタイムは一日に一回だ。おかげで飼い主は一日に一回しか、利口な姿を見ることができない。

　そんな利口犬でもできないことがある。”オテ”だ。
　どうしてもできない。”マテ”ができるから”オテ”ぐらい簡単だろうと何回もやってみるのだが、できたためしがない。
　食事の前にもやってみたが、オスワリの姿勢でマテのまま動こうとしない。
そもそもこいつは”手”というものを理解しているのだろうか、ひょっとしてこいつにとっては手は足じゃないだろうか、そう考え”アシ”と呼びかけてみたが、やはりなんの反応も示さない。
　なるほど足は足でもどちらの足か分からないのだろう。ひょっとして後ろ足を上げようとしてるけど、その格好がうまく取れない可能性だってある。
　試しに”マエアシ”と呼びかけてみる。だがマテの格好のままじっとエサを見つめるだけで、いっこうに態度に示そうとしない。ただ小さな変化はある。口から唾液が垂れ始めている。
　分かった。こいつには利き手があるんだろう。
　茶碗を持つ方が利き手だ。どっちだっただろう、そう考えながら一瞬その場から注意をそらすと、こいつは洗面器のエサ入れに顔を突っ込み始めるのだ。
そうだった。こいつは手を使ってエサを食べない。きっと利き手がどっちか分からないので　迷っているのだ。
　利口だから”オテ”といわれてもどちらを上げていいか困っているに違いない。
　それほど利口なのだ。その証拠に”マテ”ともう一度いうと、また洗面器から顔を上げる。

実は”利き手”についての科学ニュースがあったので、それをネタにメモしようとパソコンに向かい始めたのだが、オチも思いつかず時間もなく今日は断念することにした。せっかくだからメモし始めた内容をふくらませることにした。
明日モチベーションが持続していれば、このテーマでまたメモしてみたい。