個性

本屋に行くと「天才を考察する」という本があった。たまには自分のことを考察するのもよかろうと、購入したのは数週前のこと。副題は~「生まれか育ちか」論の嘘と本当~というものだ。遺伝子がそれを保持するもののすべてを決定するということはなく、環境も遺伝子に影響を与えるという内容で、ほかで読んだ本の表現を借りれば、面積が縦×横のように生物を形作る要因は遺伝子×環境なのだ、という事実をこの本にある豊富な例でさらに深めた次第だ。


ただふたつ難点がある。ひとつは「ラマルクは二百年も先を行っていた」という文言には違和感を覚える。ギリシャの哲学者がアトムという概念を持っていたからといって原子を理解していたということはないのだ。それは、ある意味、表現の偶然の一致にほかならない。
もうひとつはあとでメモすることにするが、実はこの本を読んでいる最中に、カミさんがほかの本を読んでみろと差し出したのだ。なんでも電車のなかで読んでいて笑いをこらえるのに必死だったという。「円卓」という文庫本だ。

深遠なる思考にふけっていたものとしては、いささか戸惑ったが、カミさんからの提案は断るわけにはいかない。面積は縦×横だがおやじの首は縦×縦にしか動かない。小学校3年生の女子、”こっこ”が織りなす日々はの物語で確かに笑ってしまう箇所が多々あるのだがそれ以上に人生訓ともとれる描写が味わい深い。とりわけ同級生の男子、”ぽっさん”とのやりとりがそうで、なかでもぽっさんが語った、「こ、個性というもんは、も、目的にしたら、あかんのや」という言葉が印象に残た。(ちなみに物語の舞台は大阪で、ぽっさんのしゃべりは吃音である)なるほどガングロ娘や、奇をてらった内容のここのメモのように、個性を目指してはいびつなものになってしまう。
小学校3年生の言葉に感銘しながら読み終えると、ふたたび「天才を考察する」に戻った。
読んだ頁の行の箇所で付箋をつけているのですぐに読書を再開することができる。本の頁数はおよそ400。付箋の位置からしておよそ半分ほど読み終えていたから、また思考モードを小学校3年生から大人の頭に切り換えて読み始めて2頁が進んだとき、第二の難点が浮かび上がってきた。「謝辞」という文字が目に飛び込んできたのだ。
カミさんに投げかける、ごはんを作ってくれてありがとう、選択してくれてありがとう、稼いできたお金を使ってくれてありがとう、みたいな感謝の言葉を関係者に向け書き記す例のもので、つまりはこれでおしまいってことを意味するものだ。
正確にメモすると、この本は412頁あり、192頁までが本文であとは出典、注釈、解説、付加とい構成になっていた。専門書でもなくそこまで詳細な出典紹介などは不要ではないだろうか、というどちらかというと怒りに近い思いがあったが、そこは”ぽっさん”の言葉にならい、これこそがこの本の個性というべきものなのだろうと、心穏やかになったのである。

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