ホタル

 今日、インターネットで知り合った人たちとホタル狩りに。まだ西の山にはほんのりと日が残っていたけど、十分な暗さ。
 で、場所に詳しい人の案内で”狩り場”に向かうと、いるわいるわ。小川の中の草の上や、山の竹林の周囲にも、ホタルが乱舞していて、ひさしぶりに感激してしまって。


 育ったところは田舎だから、小さいときになんども見てるはずなのに記憶にない。ただひとつ、亡くなった祖母に引きつられてホタルを見に行ったことだけは、どういうわけか鮮明に覚えている。
 小学校2,3年頃だっただろうか。老人会の催し物だった。百人近いお年寄りが、堤のそばでテーブルを持ち出し宴を開いていた。
 まだ日のあるうちからの宴会で、祖母もジョッキのビールを手にしていたのを覚えている。
 というか実はホタルを見たことはまったく覚えてなく、そのシーンだけが鮮明に記憶に残っているのでして。
 というのは、祖母はアルコールがにがてだったのか、ジョッキのなかに砂糖を入れ始めたのね。それも一杯や二杯じゃない。結局10杯近く入った砂糖入りのビールを祖母はおいしそうに口にする。やがて不思議そうに見つめる孫が気になり、祖母はこう言葉を掛ける。
「飲んでみるかい?」
 差し出されたジョッキは西日に輝いていた。
 それが、初めてのビールとの出会いだった。人生の軌道をもゆっくりと変えることになるアルコールの力なぞ、知る由もない少年院長は、祖母と交代でジョッキの縁に口を付け、その甘さに浸り続けたわけで。
 ところでクリスマスのイルミネーションもそうだけど、ヒトってなんで小さな光に引きつけられるんだろうね。点滅してればなおさらみたい。
 あの子へのほんのりとした思い、上司への漠然とした不満、人からいわれた小さな棘のような言葉。
ひょっとしてヒトの頭のなかって、そうした形にならない思いがほのかに輝いているんじゃなかろうか。ホタルの光が心を映し出しているから、ヒトは感動を覚えるんじゃなかろうか。
スタッフ「なに寝言いってんですか」
院長  「いや感動したので、つい」
スタッフ「じゃあ少年院長の頭のなかではビールが一番輝いていた」
院長  「いやビールに感動したので、つい」
スタッフ「ホタルの記憶がないなんてアホタレじゃないですか」
院長  「ア、ホタレでした」
スタッフ「そうでしょ」
院長  「ア、ホタルでした」
スタッフ「……頭のなか真っ暗でしょ?」

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