身の丈

(2021年 地元医師会報寄稿文)
 この言葉、慎重に扱わないと、いつぞやの英語試験にまつわる文科大臣のようになるからやっかいだが、決して悪い言葉ではない。それを身をもって経験したことがある。

 当院のいろんな電子システムは自前のプログラムで動いている。ただひとつレセプトをチェックするプログラムが数年前までできず、有償のソフトを利用していた。

 ご承知のように、レセプトをチェックするという行為は行った診療や投与した薬剤などに対し、それぞれの病名との適応をチェックするものである。そのためにはあらかじめそれぞれの医療行為や薬剤の適応病名を列挙しておく必要がある。
たとえばセフゾンという薬の適応疾患を列挙し、レセプトに記した病名がその疾患名のなかに該当するかどうかを調べるという理屈だ。だから診療行為や薬剤の膨大な適応疾患のデータを準備しておく必要があり、ひとつや二つであれば可能だろうが、幾多もある診療行為や薬剤のことを考えると、そうしたプログラミングはちょっと無理かな、と考えあぐねていた。
だが、あるフリーソフトに遭遇して、がらりと見方が変わった。

 レセプトをチェックするフリーソフトがないかと、なんとなく調べていたとき、長崎県の開業医の先生が作られたソフトに出くわしたのだ。あるプログラミング言語で書かれていて、そのバージョンはそのときすでに廃版となっていたためプログラムそのものは利用できなかったが、そこにあるアルゴリズムはすぐに理解でき、そして実にすばらしいものだった。

 それは自分が行った診療内容や薬剤から適応疾患のデータを作り上げていくという手法だった。いわばトップダウンではなくボトムアップともいえる手法だ。
だから膨大な適応疾患を準備する必要はなく、自分が行った診療行為や薬剤の適応疾患をそのつど追加していき、それをチェックさせればいいというわけだ。

 まさに目からうろこ。

 さっそくそのアルゴリズムを真似て他のプログラミング言語で書き上げた。最初はデータを準備しなければならないため、多少の時間がかかったものの、小さな診療所での診療行為などたかがしれたもの、ほどなくデータは仕上がり、あとは、さらに必要があれば新たに診療内容や薬剤に見合った病名を追加していけばいいだけのこと。それ以来レセプトチェックの費用を浮かせることができている。

 狭い範囲ながら自分のまわりをきちんと押さえることさえできればオンラインという大きなシステムでも対応できる、つまりは身の丈に合ったものをきちんと纏えば、大きな問題にも対応できるのだ。

 とはいえ、me の丈に合うようにレセプトチェッカー作りましたと胸を張っていえるのだが、you の丈に合うように作りなさいなどの意味を込めていわれたとしたら、やはりそこはかとなく、上から目線を感じてしまう。
 この言葉、やはり取り扱い要注意、かな。