ニュートン力学


 クリニックでは、時間が空いたときはスタッフ同士で自由闊達な討論を行っている。肉ジャガの味付けの仕方から、宇宙の大きさにいたるまで、守備範囲は広い。先日も、ひょんなことから潮の干満の話になり、なぜ満ち引きがあるのかということになった。だいたいの意見は、月の引力があるからでしょ、に落ち着く。クリニックの知的レベルに安心しながら、じゃあ、と答えを知りつつ、発展問題を出す。なんで2回満ち引きがあるの?


 ものごとは考えてからいうもの。質問した後、知っていたつもりの答えがウロ覚えであったことに気づき、ふと不安に陥る。が、それは顔に出さず、まず月の引力の絵を描いて見せる。みんな大体こんな風に思ってるんだよなぁ。でもね、これだと、ほら日に一回しか満ち引きが起きないでしょ?(図)

 だけど、実はこんな風に月の引力は働いているわけよ、と自慢げにまた描く(図)。でも、なんでこうなるんだっけ?それが不安の種だったのだが、もちろん優秀なスタッフは、それにすぐ気づく。「エー、なんでこうなるんですか?」
 ちょっと待っててねと院長室に行く。そう、確か、なにか分かりやすい本があったはず。探すこと数分、それらしき数式が載った本を手に受け付けに戻る。こんなわけよ、と数式の載った頁を見せるが、本人もよく分からず、すばらしく気が優しく、好奇心に富むスタッフの方々は、たちまちのうちに話題を結婚式のご祝儀に移された。
 毎週木曜の午後は、ほかの病院の診療手伝いにいっている。そこでMRI検査をオーダーしたとき、ふと、このクリニックでの干満の話を思い出した。MRIという検査は、磁石を用いる検査。強力な磁力を当て水素原子を一列にならべ、その後のスピンの変化を信号に変えるということらしいが、分かるような分からないようなというのが実感。原子の姿というものが、日常生活の体験からは、なかなか想像できないからだと思う。それに比べて、いわゆるニュートン力学の世界は、直感的に捉えることがやさしいと思っていたのだが、そうでもないのかなぁというのが、潮の干満の例。なんか実感として分かりやすい説明ないかなぁ。
 ついでに思い出した。
 遠い将来、月が地球に落ちてくるかも、という話のとき、「じゃあ、明るくなるんですね」というスタッフの疑問については、またの機会に検討しよ。

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