電子カルテ雑感2

電子カルテの真正性を担保するためハッシュ値というものを用いている。数字とアルファベットで構成される文字列で、いろんなデータが天文学的な確率で一意的に決められるものだ(と解釈している)。その日に触れたほとんどのデータ、すなわち閲覧だけのデータ、入力したデータ、修正したデータ、取り込んだ画像データなどなどをその日付のフォルダに入れ、それぞれにハッシュ値を付与する。そのハッシュ値さえ手が加えられていないことが証明されれば、データに手が加えられていないことになる。つまりカルテの改竄はないというわけだ。


電子カルテを稼働させる前はこのハッシュ値をすべてノートに手書きしていこうと考えていたが、すぐに愚かな行為だと気づいた。いくらヒマなクリニックとはいえ、毎日のいくばくかの時間をその作業に割り当てるのはなんとも情けなく、かつたちまちノートがいっぱいになるはずだ。
ということで悩んだあげく、やり方を変えた。その日のすべてのハッシュ値を書いたテキストを一つ作り、それにハッシュ値をつけ、プリントアウトしだその値だけを書き記すようにしたのだ。時系列で連続したプリントアウトしたものだけでもいいかとも思うが、これもやろうと思えばいかようにも改竄可能である。改竄後、最初から新しくプリントアウトすればいいだけの話だからだ。
この手の理屈は普通の紙のカルテでも通用する。だが理屈はそうだが現実にはできないことは、世の中たくさんあるものだ。飲み過ぎは身体によくないと分かっていても深酒をしてしまう、勉強をしなければいけないのに、つい遊んでしまう、運動をしたほうが身体にいいことは分かっているのについついさぼってしまう、そうした自省をふまえながら、さらにプリントアウト以上の非改竄性ともいうべき性質を書くという行為で得ようというわけだ。
それだけではない。記録した日も書き添え、さらには新しく書き直されたものでないことを補強するため、日々異なるスタッフの手で記入してもらっている。ここまでしていればほぼ真正性は確保されるものと信じている。そう安心していたのだが、ある日ふとハッシュノートを開いてみるとなんと白の修正テープでごっそり修正されている一行があるではないか。間違ったときは削除線を引くように言い伝えてはいたのだが、徹底してなかったようだ。


 
自身もときどき記録に参加しているのでよく分かるが、プリントアウトされた長い文字列を間違いなく写し取るのはほんの短い時間とはいえ、かなり集中力を要する作業である。 その集中力がかなり初めの箇所からとぎれていたのだろう。そんなことがあってもおかしくはない。だが間違った箇所を塗りつぶしてしまってはこの記録の意味がなくなるのだ。
そんな自分の思うままの行為、つまり恣意的な行為はノートの価値をゼロにしてしまう。
もしカルテの改竄が疑われたとき-おそらくそんなことが現実にあるとすれば司法の場ということになるのだろうが-このハッシュ値の修正はカルテ改竄後になされたものではないかと問われたら、申し開きができないのだ。後ろの公聴席で傍聴している人たちの冷笑の声が聞こえてきそうだ。そんなとても恥ずかしい思いをこの管理者はしなければならないのだ。
繰り返すが、間違った箇所を塗りつぶすことはぜひやめて欲しい。そんな恣意的な行為は、とってもハッシュが恣意ことなのだ。

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