聴診器



ずいぶん昔のことになるが大枚をはたいてりっぱな聴診器を手にした。おのれの技量不足をせめて金銭でおぎなえることができれば、との思いと、首にさげたりっぱな聴診器を見て患者がだまされれば、との思いで購入したのだが、その聴診器が最近ヘタって来た。劣化のためゴムの部分が硬くなってきたのだ。
通常、聴診器の管は柔軟で、身体の凹凸に関わりなく、聴診するときにはこちらの姿勢をそれほど変えることなく患者が体内で発する音を聴くことができる。聴診器の軸が自由に取れるからそれが可能になるわけだが、固くなった聴診器では事情が違う。聴診器を当てるいろんな方向に対して、まるで塗り壁に向かう左官のように、その都度こちらが姿勢を変えなくてはいけないのだ。こんなことではだまされていた患者に疑念を抱かせることになるし、そもそもこんな自由軸を失った聴診器で聴けるのは sound of 無軸 でしかない。


ということで買い換えを業者に打診したのだが、そこで一悶着が起こった。業者が持ってきた新品のはずの製品に、定番の包装が施されていないのだ。スーパーで求める缶ビールにはビニールなどで梱包されていなくても合点がいく。密封性が保証されているからだ。逆に包装されていたら輸送のとき傷でもついたのだろうかと勘ぐってしまう。
でも、たとえばテレビを購入したとき、通常納められている箱などなくテレビだけが運ばれてくれば、どうだろうか。うさんくささは東電の原発事故の発表に近いものがあるのではないだろうか。そこまで極端ではないにしても箱から取り出したテレビに定番の包装、つまりビニールやプチプチ包装の類が箱の中になければ、その搬送の経緯をいかがわしく思うのが人の常だろう。
くだんの聴診器も同じような状況だったのだ。箱には封の跡などどこにもなく、聴診器の型に合わせたスポンジの内装こそあったもののビニールなどで保護されることなく、ぽつねんと聴診器は置かれていた。
ということで聴診器を持ってきた業者にその旨を抗議すると、一旦商品を持ち帰ったものの、写真を持ち込んできた。それが最初の画像だ。製造元は米国でこんな具合に空輸されてくるという。つまり個々の箱詰めにされた製品はそれぞれは封印されてなく、それをいくつか納めた段ボール箱が封印されているというのが業者の主張だ。
写真まで提示され、かつそろそろ患者をだまし続けることができなくなった事情も手伝って、仕方なく購入するしかなかったのだが、やはり合点がいかない。
そもそも、どんな商品であれ新品を手にしたときのワクワク感がない。それは箱を封印してあるラベルを切るときや、包装してあるビニールを破るときに感じるものだろうが、そうしたものが全くないのだ。ましてや段ボール以外、なんにも包まれることなく米国から送られてきたという事情を知ったからには、そんな感情が湧きようもないではないか…とまぁ、超辛気くさいメモになってしまった。
ちなみに超辛気くさいメモ本家はこちら。

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