ヒブワクチン


 父親の威厳などそのうち失墜してしまうものだ。そのときのために双子の子らにはうんと恩を売っておかねばならない。うまくいけばその恩を盾に、地に落ちた威厳を彼らがさらに踏みつけようとするのをなんとか防げるかもしれない。
 その一つのチャンスがやってきた。


 ヒブワクチンというワクチンがある。インフルエンザ菌b型という細菌で引き起こされる髄膜炎を予防するものだ。現在90カ国以上で定期接種として行われていて、98年にはWHOが定期接種を推奨したにも関わらず昨年の終わりまでこの国では認可されなかったといういわくつきのものだ。世界に遅れることおよそ20年、その理由について医学雑誌に載っていた関係者の言葉を借りると「安全性をきびしく追求したため」ということらしい。
 だが問題はそれだけではない。日本では任意接種、つまり費用は自己負担となっているのだ。乳幼児の場合4回の接種が必要ですべて合わせるとおよそ3万円なり。
 うちは年齢的に1回接種で済ませることができるようなので額は少なくなるとはいえ、二人分だからそれでもン万円の出費となる。
 厚労省の思惑がどこにあるかは定かではないが、これでは接種の普及の足かせになるだろう。定額給付金が手にはいるまで待とうかとも考えたが麻生さんの先行きも見えないし、早めやっておいた方がいいだろうと思い切って先日接種した。
 お前たちのため、父さんはビールを飲むのをがまんしたんだぞ、そんな恩着せがましい将来の科白がこれで担保されたわけだが、双子の父親のこうした明確な思考とは裏腹に、厚労省の考えていることがますます分からなくなった。
 接種の際、「ヒブワクチン接種をご希望の方へ」と「予診票」の二つの文書が手渡される。「ご希望の方へ」にはヒブワクチンの説明や接種できない場合や接種後の注意点などが書かれてあるのだが、そのなかに以下のようなくだりがあった。
「このワクチンは製造の初期段階にウシの成分が使用されていますが、その後の精製工程を経て製品化されています。またこのワクチンはすでに世界100カ国以上で使用されており発売開始から14年間に約1億5000万回接種されていますが、このワクチンの接種が原因でTSE(伝達性海綿状脳症)にかかったという報告は1例もありません。したがいまして理論上のリスクは否定できないものの、このワクチンを接種された人がTSEにかかる危険性はほとんどないものと考えられます」
 TSEとはいわゆる狂牛病のことだ。そんなことは全く起こってないと明言してあるわけだ。なるほどなるほど、安全なことは十分納得しました、といいたいところだが、不思議なことに予診票にはこのウシさんの話が3回も出てくる。
 まず質問のところに以下の文章。
「今日受ける予防接種にうちての説明文(ウシ成分の使用に関する説明を含む)を読み、理解しましたか?」
 次に医師記入欄に以下の文章。
「保護者に対して予防接種の効果、副反応、ウシ成分の使用(以下略)について説明しました」
 最後に保護者記入欄
「医師の診察、説明(ウシ成分の使用に関する説明を含む)を受け(以下略)」
 この文章は製薬会社さんが配っているものだが、認可の段階で間違いなく厚労省の意見が反映されている。 えーと、安全なんですよね、ともう一度問いかけてみたくなるような仕掛けにも見えるし、もし万が一、どころではなく億が一なにかがあれば役所が責任を回避できるというよう仕掛けにも見える。
 なんだかしっくりこないが、本当にもしそうだったら官僚の恥ずべき箇所を全世界に晒しているようなものだ。
 そんなときには怒りを込めてワクチンをこう呼ばせてもらうぞ。



2 Replies to “ヒブワクチン”

  1. そういえばお医者さんって
    自分でワクチンとか打つんですかね?
    え?裸?そりゃワクチンじゃないですよ。
    それはー フ ・ ル ・ チ ・ ン

  2. 最近は縮こまってしまい、振ろうにも振れなくなってきています。

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