ヘリコプター


 世の中には無計画な親がなんと多いことだろう。昨日、大型おもちゃ店のクリスマスコーナーを見て痛感した。
 サンタクロースの衣装が売り切れだったのだ。それを見て一着ぐらい残ってないかと店員にしつこく質す客がいた。サンタクロースの格好をして子供たちを驚かそうとするアホな親たちがいるのは理解できる。だがクリスマスまであと4日の、それも休日だぞ。突然思い立ったアホ親連中が殺到して品切れになるということぐらい予想できそうなものではないか。もっと前から購入しておくという知恵が回らないのだ。


 ああ、おかげで双子の子供たちにサンタさんを見せることができなくなった。
 もう少し粘れば倉庫を点検ぐらいしてくれたかもしれないかもしれない。そうした後悔と、来年は早めに準備しておかねばと反省の念を抱きながら店を出たのはいいが、さて子供たちへのアトラクションはどうしたものか。
 こうなったらおぼろげながら用意していた次善の策を具体化しなくてはならない。
 我が家には庭がある。将来、自分が徘徊し始めたとき遠くまで行けないよう四方を壁で囲ってある。それも脚立ぐらいでは脱走できないほどそこそこの高さがある壁だ。
 幸い、壁の向こう側の一部に足場を設けられる箇所がある。そこから紐にくくりつけたプレゼントを庭にするすると下ろす。カミさんがいうには家にはサンタ帽はあるとのことだから、頭だけでも出して演出したら、まさにサンタさんの贈り物だ。
 だがオヤジサンタが直接手渡すインパクトを考えると迫力にかける。なにか演出にプラスアルファができないものかと考えながら大型おもちゃ店を出てから数分後、きびすを返した。子供たちの絵本にサンタがヘリコプターに乗ってやってくるシーンが描かれていたのをふと思い出したのだ。と同時に、大型おもちゃ店の店先にクリスマスセールで数千円引きのリモコンヘリが置かれていたのも。
 我が家のサンタさんはヘリコプターでやってくる。まずヘリが登場しそのあとサンタさんがひもでプレゼントを壁沿いにおろす。すばらしいアイデアではないか。
 壁の向こうで操作する小型ヘリだが、子供らは実際に空を飛ぶところを目撃できるヘリなのだ。子供たちがもう少し成長したら他の子からバカにされるかもしれない。「バーカ。サンタさんはトナカイでやってくるんだぞ」
 だが子供らよ、心配するな。そのときのためのディベートもちゃんと用意している。
「おまえはトナカイを見たことがあるトナカイな」
 そんなこんなで買い求めたヘリをさっそく家で操作してみたのだが、これが意外とむずかしい。説明書にある操作の初歩として膝の高さまで上げて止める、いわゆるホバリングというのも全然できない。ちょっと上がったかと思うとあっというまにバランスを崩してしまう。本体は発泡スチロールでできているため、ヘタすると分解しそうになるほどの勢いで床に転倒してしまう。始末の悪いことにバッテリーが5分ほどしか持たず、かつ充電するのに小一時間必要なので、練習するにも時間に制約がかかる。
 それにも関わらず決行日は明日の休日しかないのだ。クリスマスならびにイブは平日で、そんな日は診療しているはずの院長がサンタの帽子をかぶり壁にへばりついてヘリを操作していると近所で評判になったら、医師生命は断たれる。
 ふと双子らが腹を空かしたライオンたちに思えてきた。明日つたない操縦をされるヘリは腹をすかせたライオンたちの上を舞うようなものだ。落ちたら最後、肉をむさぼるライオンのように双子らの手でバラバラにされてしまうだろう。
 だがそんなことより大事なことがある。落ちるのはヘリだけでない。父親の威厳も失墜していまうのだ。
 リモコンを握り続けるしかない夜というのもあるのだな、と変な感心をしながら、夜は更けていく。

“ヘリコプター” への4件の返信

  1. 父親の減厳が厳りコプター、って書いても麻生さんなら正しく読んでくれるような気がします。

  2. 今年も一年お世話になりました。
    来年もよろしくお願いします。
    では、では、よいお年を~♪

  3. 明けましておめでとうございます
    本年も時々覗きに来てくださいね
    私もミニーちゃん買っちゃいました ♪
    まだ、届かないけれど

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