プライバシー

先の日曜日、「JAFデー 福岡タワーdeチリメンモンスターを探せ!」なる夏休み企画に参加してきた。台風11号が近づいていたが、10倍近くの抽選に当たったこともあり、田舎町から福岡まで向かった次第だ。
会場では前方に向い長机が横3列、縦5、6脚の並びで配置され、一つの長机に二人ずつ着席させられた。小学2年生の双子らはそれぞれこのおやじの机とカミさんの机に別れて着席して開始を待っていた。
結局総勢30名近くの親子がそろい、定刻になるとJAFのスタッフから会の進行について説明が始まる。
机に置かれていたトレーにチリメンジャコが入った袋を広げて、紛れている小さなザタツノオトシゴやイカ、ほかにも机に置かれてある写真入りの案内にあるような見たこともないような「モンスター」を用意されたピンセットで探し出す。最後に気に入った「モンスター」をペンダントにしてくれるという。
あらかた説明が終わったあとにスタッフから次のような趣旨の打診がなされた。


-会場の写真を撮ってJAFの雑誌やホームページに載せることになるかもしれないが、もし支障がある方は手をあげて欲しい-
手を挙げることは、善悪はさておき、なんらかのまずい理由を持っていることをその場で表明することになる。はたしてそうした人がいるのか、ちょっとした緊張が漂う中、お互いの気配を探っていたが、驚いたことにわたしの隣に座っている息子がゆっくりと手を上げ始めたのだ。
会場の大人たちはたちまち笑いの渦に引き込まれた。子供におとなが抱くようなまずい理由などあるわけがなく、意味の分からないままの幼い行為だと認定されたわけだ。
当然のことながら当の本人も場の笑いが自分がもたらしたものとは分かっておらず、ほかに挙手する人もないなかで司会者から、ではモザイクを使いますね、などと軽くいなされ会は始まった。
笑っていたとしてもそこは父親。まさか小学2年の分際で愛人問題でも抱え悩んでいるわけでもないだろう。いったいなぜ手を挙げたのか、会の進行中にさりげなく問いただすと、彼の答えはこうだった。
学校でクラスの写真を撮られ、自分が映っているものが張り出されているという。教室でそれを直視できないというのだ。
シャイな奴などという表現も当てはまるのだろうが、一方で親としてこうも感じた。
まだまだ子供だと思っていたが、子供なりにプライバシーを持ち始めているのだと。
子供と親との間に岩清水のような水滴の流れができはじめているのだ。男と女の間に横たわる深い川まではいかなくとも、その流れはだんだんと太く大きくなっていくのだろう。
とはいえ親と子の溝が深まるわけではない。ちゃんと川を渡る橋を大事にすればいつまでもお互い行き来できるはずだ。
この橋の欄干には「プライ橋」と刻んであるのかな、などと出来上がったペンダントを見ながら思いにふけった日であった。